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2008年10月7日

◎東証大幅安 二次補正で追加の景気対策を

 日経平均株価の一万円割れが現実のものとなってきた。米国株の急落で日経平均株価は 一時五〇〇円以上暴落し、四年八カ月ぶりの安値水準まで下がった。日本以外のアジア、欧州市場も同様であり、世界同時株安の様相を呈している。

 米国の金融危機が欧州へ拡散し、実体経済の悪化に歯止めがかからない。不良資産を抱 えて身動きが取れない欧米はもとより、中国、インド、ロシアなど伸び盛りの新興国も成長に急ブレーキがかかり、足取りが怪しくなっている。これらの国々が独力で不況を克服できるとは思えない。

 その点、日本の金融機関はサブプライムローン問題の傷が浅く、欧米の同業者より体力 がある。省エネや環境分野でも優れた技術を持ち、長い不況を生き抜いた知恵もある。為替が円高に振れているのは、日本の総合的な「国力」が評価されているからでもあろう。この危機を日本はいち早く脱し、かつてのような「成長エンジン」として、世界経済をけん引する役目を果たさねばならない。

 未曾有のピンチをチャンスに変えるには、骨太の景気対策が必要だ。総合経済対策や定 額減税だけでは、企業の投資意欲や国民の消費マインドを大きく変えるのは難しい。法人税減税や住宅ローン投資減税、証券優遇税制の拡充など第二、第三の景気対策を組み込んだ二次補正の検討をすぐにでも始めて欲しい。

 金融安定化法案が難産の末に成立し、米国の金融危機が金融恐慌の引き金を引く最悪の 事態は避けられたが、英独仏伊の欧州主要四カ国の首脳会談では金融安定化のための基金創設が見送りになり、今度は欧州での金融危機がクローズアップされている。本当の危機はまだ始まってもいないのかもしれない。

 麻生太郎首相は就任に際し、内閣の最優先課題は景気対策と明言した。衆院本会議の所 信表明に対する代表質問では、補正予算の成立に強い意欲を示すとともに、「必要に応じさらなる対応を弾力的に行う」と述べた。世界規模での景気悪化が現実になりそうな今こそ、「さらなる対応」の具体的な中身を示すときである。

◎山中の技でチェス 漆を海外に広める好機

 世界的な現代美術家、アレクサンダー・ゲルマン氏が山中漆器の職人と組み、漆のチェ ス制作に乗り出すプロジェクトは、昨年の輪島塗とルイ・ヴィトンの共同制作、今夏の洞爺湖サミット夕食会の乾杯で用いられた輪島塗の盃(さかずき)に続き、石川の漆の技を海外に広める好機である。

 言葉の意味としての「漆器=ジャパン」は世界的に通用しにくくなっていると言われる が、海外の著名作家やブランドメーカーが石川の漆芸に引き寄せられる近年の動きは、「ジャパン」が再び海外で広がる夢を抱かせる。地元産地は自らの「ブランド力」に自信をもって海外、あるいは他分野へ積極的に打って出たい。

 山中漆器の技とチェスの道具は意外な組み合わせに思えるが、欧州では富裕層を中心に 収集家が多く、駒や盤は高級インテリアとして用いられている。卓越した木工の技を駆使する山中漆器にとっては、その魅力を海外に発信する願ってもない工芸品と言える。

 ゲルマン氏が山中の伝統工芸士と試作したのは、拭(ふ)き漆や金蒔絵(きんまきえ) で仕上げたチェスの駒六種類と、平文(ひょうもん)などで加飾したチェスの盤三種類。今後、ロンドンやミラノの展示会で富裕層にアピールする。ゲルマン氏は「漆本来の美や力をチェスに託し、国際的に通用する美ができた」と手応えを語ったが、その言葉は地元産地の何よりの励みとなる。山中漆器業界の欧州向け統一ブランド「NUSSHA(ヌッシャ)」の知名度向上にもつながるだろう。

 ゲルマン氏が山中漆器に着目したのは、英字雑誌の企画で県内を取材に訪れ、漆器職人 の仕事ぶりに触れたからだった。輪島塗作家とルイ・ヴィトンによる小物ケースの共同制作もファッション雑誌の企画がきっかけである。

 こうした巡り合わせは石川の伝統工芸にとって国内外への強い発信力となり、販路が大 きく広がるだけに、チャンスを自らの手でたぐり寄せる努力や企画力が産地には必要である。県も伝統工芸の潜在的な可能性を引き出すコーディネーターを養成するなどして産地の取り組みを後押ししてほしい。


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