亡くなって10年。高岡市伏木出身の作家堀田善衞さんの話題が久々に紙面を飾った。日記が発見されて話題になっているという。戦中戦後の混乱期を過ごした中国上海の記録が貴重だと記事にはある 晩年の堀田さんが高岡で講演したことがあった。ところが、市民から「先生はふるさとに冷たい」と指摘され、会場にも同感する空気が流れた。「そんなことはないと思いますが」と言ったきり堀田さんは困惑の体だった 外国暮らしが長い作家だった。帰郷も少なく神奈川で過ごしたことも「ふるさとに冷たい」と見られたのだろう。が、北前船の回船問屋に生まれ、金沢二中に学んだ堀田さんの作品「若き日の詩人たちの肖像」などには、故郷の北陸が鮮やかに描かれている 西欧絵画や古典を題材にした作品が深い味わいがあると評価されたのも、ふるさとにこだわった若い日々があったからではないか。「ふるさとは遠きにありて」と室生犀星は歌ったが、愛憎相半ばする故郷への思いは、文学者の永遠のテーマだろう 秋の夜長、国際的な作家の中に潜む「ふるさとの力」をいま一度読み返してみたい。
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