薬害肝炎訴訟で、全国原告・弁護団と被告企業の田辺三菱製薬(旧ミドリ十字)、子会社ベネシスの両社は事実上の和解となる基本合意を締結した。田辺三菱の葉山夏樹社長は「責任を痛感し、心からおわびする」と患者や遺族に初めて謝罪した。
原告・弁護団は残る被告一社との協議も再開し、全面解決を目指す方針だ。提訴から六年を経て、薬害肝炎問題は大きな区切りを迎えたといえよう。
合意を受け、大阪高裁で開かれた口頭弁論で、原告十三人が賠償請求の放棄を表明し訴訟を終結させた。今後全国の訴訟で同様の手続きが行われ、裁判を終えさせる方針だ。請求放棄は、これまでの訴訟で敗訴した患者も含め一律救済するため原告側が行った苦渋の決断だ。
合意書では、被告二社がフィブリノゲンなどの血液製剤による薬害発生と被害拡大を防止できなかったことの「責任を認め、深くおわびする」と明記している。ウイルスに汚染された血液製剤の危険性を認識できたのに、事態を放置したことで被害を広げた責任が国とともに製薬企業にもあることを認めた意義は大きい。
さらに青森県での集団感染発生から二十年以上が経過し投与を証明するカルテが多くの病院で廃棄されたこと、四百十八人の感染被害者リストを旧厚生省に報告しただけで、昨年まで本人に告知しなかった事実なども指摘した。
その上で「恒久対策」として、C型肝炎治療のための新薬開発に努めることや、被害の実態調査、医薬品行政の検証への協力、原告・弁護団との継続協議なども盛り込んだ。被告二社は、薬害根絶に向け、これらの対策を誠実に実行することで、利益追求より患者の命の安全を重視する経営に転換したことを行動で示さねばならない。
訴訟は終結するとしても、問題がこれですべて解決するわけではない。投与を証明するカルテが廃棄されている患者の救済が残されている。一九八〇年以降だけでもフィブリノゲンを投与された患者は約二十八万人おり、うち肝炎ウイルスの感染者は一万人以上に上るとみられている。第九因子製剤の投与患者数などは把握できていないのが実情だ。
二〇〇二年以降、これまでに薬害肝炎で提訴したのは原告団も含め約千四百人で、国と和解が成立したのはわずか四百七十人にすぎない。輸血や注射器の使い回しなども含むウイルス性肝炎感染者となると全国に三百五十万人はいるといわれる。国や企業による手厚い患者支援策も必要となろう。
日本相撲協会は、組織の透明性を高めるため外部から招く理事に東大名誉教授の伊藤滋氏と元東京高検検事長で弁護士の村山弘義氏、監事に元警視総監の吉野準氏を起用した。相撲協会の役員に親方以外が就任するのは戦後初めてのことだ。
昨年の横綱朝青龍の無断帰国と出場停止騒動から始まり、時津風部屋での力士死亡事件、今年の秋場所前に起きた大麻問題に至るまで、相撲協会は相次ぐ不祥事に有効な手が打てず、文部科学省から外部役員起用を強く要請されていた。力士経験者だけの閉鎖的な運営が行き詰まった証拠であろう。
外部役員に選ばれた三人は、いずれも七十代と高齢だが、それぞれの世界では経験豊富な実務派で、手堅い人選といえよう。大麻問題で理事長交代があり、白紙状態からの選考となったが、問題山積の角界だけに受諾に難色を示す人が多かったという。それでも司法関係者をそろえたところに相撲協会幹部の危機感がうかがえる。
十一人の理事のうち外部理事は二人である。年六回開かれる定例理事会や問題が起きた場合の緊急理事会に参加し、議決権も持つ。社会常識とかけ離れた角界の論理がまかり通る事態になれば、声を上げ、ただしていくことが求められ、責任は重い。「ファンあっての大相撲」であることを忘れぬようにしてもらいたい。
外国人力士が増えていく中で、国技としての伝統を守りながら力士教育をどう行うかはこれからの重要な課題となろう。土俵上での品格ある所作、社会人としての常識など、親方任せにしてはなるまい。協会としての態勢づくりが急務である。
外部役員によって新しい風が吹き込まれ、大相撲改革の力となることを期待したい。
(2008年10月6日掲載)