ファミコン開発への出会いがあった

 ゲーム&ウォッチは、製品企画を製造本部開発第一部部長(現職)の横井軍平(敬称略、以下同)、技術を製造本部開発技術部部長(同)の岡田智が担当した。

 2人は、ゲーム&ウォッチ以前にもヒット商品を生んできた。代表例は「ウルトラハンド」、「ウルトラマシン」、「光線銃ゲーム」である(図2)。

 このようなゲームを企画した横井は最初からゲーム開発を担当したわけではない。横井が入社した当時、任天堂は花札が主力商品の会社だった。電気工学科出身の横井が最初に配属された部署は、製造設備の修理を担当する工務課である。配電盤のチェックが主な仕事だったという。

 横井が、ゲーム機開発の仕事を始めることになったのは、ちょっとしたきっかけからである。物作りが好きな横井が会社の工作機械を使ってオモチャを作って遊んでいたところ、社長の山内溥に見つかって呼び出された。社長は意外にも、そのオモチャを製品化するという。

 こうして登場したのがウルトラハンドである。横井自身が思ってもいなかった方向に事態は展開したのである。製品化に当たってはテレビにコマーシャルを流すというおおげさなものになった。「当時の玩具業界は10万台売れればヒット商品という時代に、意外にも100万台を超えた」(横井)という。こののち、横井はゲーム開発を担当することになり、受け皿として開発部が発足した。横井はそこに所属することになった。

 新しく発足した開発部に、岡田が入社してきた。実は横井が大学で学んだ技術は真空管が中心だった。当時すでに、トランジスタやICが登場していた。横井は、このような新技術についていけないと思い「俺は企画に徹する」と決断し、技術は若手に任せることにした。以来、横井がゲームを考案し、岡田がその実現技術を担当するという関係が続く。

 2人が初めてコンビを組んで本格的に開発した製品が、光線銃ゲームだ。当時、シャープの社員だった上村雅之(現任天堂製造本部開発第二部部長)が太陽電池の売り込みに任天堂に来ていた。のちに、上村はファミコン開発の責任者になる。ここに運命的な出会いがあった。

 上村が売り込みにきていた太陽電池は、電池という名称ながら実はセンサである。横井はこれを光線銃のセンサに使うことを発想した。銃の標的側から光を発射し、光線銃に装備した太陽電池がそれを感知すると当たったと判断する。

図2 横井と岡田が開発しヒット商品となったゲーム機の例
 (a)、(b)、(c)の順に製品化した(画像クリックで拡大)