元1級建築士の姉歯秀次受刑者(51)による耐震強度偽装事件で、被害にあったマンション住民が6日、国と東京都世田谷区と川崎市などを相手取り、総額約10億4500万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。一連の事件で国を相手に提訴したのは初めて。
訴えたのは「グランドステージ(GS)千歳烏山」(東京都世田谷区)の20世帯30人と「GS溝の口」(川崎市高津区)の18世帯27人の計57人。国のほか、民間検査機関「イーホームズ」(廃業)も相手取って提訴した。
訴えによると、住民側は、国が民間検査機関に対して監督責任を十分に果たしていなかったと主張。「国が的確に注意喚起をしていれば、民間検査機関は偽装があることを発見でき、損害は発生しなかった」としている。
既に二つのマンションは取り壊され、「溝の口」の建て替えは完了、「千歳烏山」は12月の完成を予定している。原告で「千歳烏山」住民の西川智さん(38)は「建て替えによる経済的な負担は1世帯あたり約2千万円と非常に大きい。一人の建築士の問題として事件を幕引きにするわけにはいかない。国が果たすべき責任を追及していく」と強調した。
耐震強度偽装事件をめぐっては、すでに2カ所のマンション住民が姉歯元建築士を提訴。このほか8カ所のマンション住民が提訴を検討しているという。
提訴について、国土交通省は「検査機関の監督は適正に行ってきた。国が法的責任を負うことはないと考えている」などとコメントした。
姉歯元建築士は、建築基準法違反の罪に問われ、懲役5年の実刑、罰金180万円の判決が確定している。(向井宏樹)