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神奈川 催し NA_テーマ2
ヒマラヤ・ラダックに学ぶ持続可能な社会づくり
2006/05/26

 シャングリア伝説というものがある。

 ヒマラヤの奥地のどこかに人々が平和に暮らす理想郷があるという伝説である。伝説によるとシャングリアはチベット、ネパール、ブータンなどの地域のどこかにあることになっている。

 古来からあったこのシャングリア伝説をテーマにジェームス・ヒルトンが書いた「失はれた地平線」という小説がベストセラーとなり、これを映画化したフランク・キャプラ監督の「失はれた地平線」(コロムビア・スタジオ:1937)がこの伝説を世界に広めたともいう。

 ところで、インド北部のヒマラヤの辺境にラダックという地域がある。ラダックはチベット文化圏で、30年前まで外国人の立ち入りが禁止されていて人々は穏やかに暮らしていた。まるで、「伝説のシャングリア」のように。

 しかし、ラダックは「伝説のシャングリア」ではない。地域が開かれるとともにラダックにも開発の波がおしよせ、人々の生活は急速に変わって行った。

 「1975年に言語学者としてラダックに入ったヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんは、つつましくも豊かだったラダックの人たちの生活が急速に変わってゆくのを目の当たりにしました。そして、エコロジカルで人間的な暮らしを取り戻すためにNGOを立ち上げ、住民たちとともに、自然エネルギーの活用や女性達のコミュニティ活動、ローカルフード運動など、さまざまな活動をしてきました」(「懐かしい未来へ−ヒマラヤ・ラダックに学ぶ持続可能な社会づくり−」趣意書)より

 5月23日、「懐かしい未来へ」(主催 ヘレナさん招聘実行委員会)が横浜市の明治学院大学横浜キャンパスで行われた。

 ヘレナ・ホッジ氏の講演「ラダックにおける伝統的な暮らしと変化、そして未来」では、明治学院大学辻信一教授が通訳として活躍した。

 ここでは、開発によってラダックに起こったことを例に「経済グローバリゼーション」が「ローカルでナチュラル(地域に即した自然な)」社会を破壊し、「住んでいる人たちに自分たちの文化が遅れていると思わせる」までになってしまう、と彼女は語った。

 また、「開発」は地域にいろいろなことを引き起こすが、これを超えるカウンターデベロップロント(開発に対抗する持続可能な開発)として自らコミョニティをつくり、自然とコミュニケーションをとる「ローカルフードアクション」という地域で食と農から変えていく行動の必要性を述べた。 

 最後に会場の学生からの「グローバリゼーションのいいところは無いのか」という質問に「経済グローバリゼーションにはないが、国際交流・共生が進むことだ」と答えた。
 
 シンポジウム「持続可能な開発とGNH」ではパネリストとして、ヘレナ・ホッジ氏に、同大学の平山恵助教授、特定非営利活動法人開発と未来工房鎌田陽司代表理事を加えて(コーディネートは辻教授)行われた。

 ここでテーマとなったGNH(Gross National Happiness)とはブータン国王が提唱した国民総幸福量のことで、GNP(国民総生産量)GDP(国内総生産量)のように物の生産などを基準に豊さを図るのではなく別の基準(オルタナディブ)で豊かさを考える指標のことであり、ここでは主に持続可能な社会づくりとの関係で論議された。

 今回のシンポジムウムは「懐かしい未来へ −ヒマラヤ・ラダックに学ぶ持続可能な社会づくり−」として20日の 「未来は変えられる:経済グローバル化を超えて」(明治学院大学白金キャンパス)、21日「真に持続可能な社会の実現に向けて:ラダックと日本」(拓殖大学文京キャンパス)などのシンポジウムや「ラダックナイト−懐かしい未来をこころと身体で感じよう!」などのイベントなどが開催された。

 また、プレイベントとして各地でヘレナ・ホッジ氏の活動から生まれた映画「懐かしい未来」の上映やトークイベントも各地で行われた。そのひとつとして「懐かしい未来:ラダックから学ぶこと」が11日にパタゴニアの目白店で行われ、映画「懐かしい未来」の上映と鎌田氏のトークセッションが行われた。参加者は多くはなかったがそれぞれの立場から論議がされた。

 パタゴニアは従来から直営店でスタッフやゲストスピーカーを迎えてアウトドアや環境問題をテーマとしたトークイベントを行っており、過去に環境関係ではセヴァン・スズキのスピーカーズツアーなども行なっている。

 「懐かしい未来へ……」は内容もさることながら、このように市民・NGOだけでなく、大学や企業、ショップなどの多様な協力によって身近な場所でも行われたことに大きな意義がある。
 
 ラダックは「伝説のシャングリア」では無いかもしれない。しかし、ヘレナ・ホッジ氏が言うように「北の世界が南のラダックのような伝統的な持続可能な生活・社会様式に学び、南の世界が北の情報などを学ぶ」ことで国際交流・共生が進み地球全体を持続可能な社会にしていくひとつの道であろう。

 私たちは、ついどこかにある「伝説のシャングリア」を探したくなるが、実際に住んでいる地域を食と農から「ローカルでナチュラル」に変えていくことが必要ではないか。

●ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ
 スウェーデン生まれの言語学者/ISEC(エコロジーと文化のための国際協会。本部イギリス)の代表。1975年にラダックに入り、ラダック語・英語辞書を作成。持続可能で公正な地球社会実現のために斬新で重要な貢献をした人々に与えられるライト・ライブリフッド賞を1986年に受賞。ラダックでの活動を継続しつつ、グローバリゼーションに対する問題提起や啓発活動を行っている。著書『ラダック 懐かしい未来』は40カ国語に訳されている。世界的なオピニオンリーダーの一人。(同趣意書より)

(参考)
懐かしい未来へ:伝統智を活かした未来のオルタナティブ
●書籍
『ラダック 懐かしい未来』ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ著 山と渓谷社
『食と農から暮らしを変える、社会を変える』
日本語版制作:NPO法人 開発と未来工房 英語オリジナル版制作・販売:ISEC DVD 
『懐かしい未来:ラダックから学ぶこと&地域から始まる未来:グローバル経済を越えて』
日本語版制作: NPO法人 開発と未来工房 英語オリジナル版制作・販売: ISEC(詳細は上記サイトに)

●ヘレナさん招聘シンポジウム
懐かしい未来へ−ヒマラヤ・ラダックに学ぶ持続可能な社会づくり−
特定非営利活動法人 開発と未来工房

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(長岡素彦)

講演「ラダックにおける伝統的な暮らしと変化、そして未来」ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ氏







シンポジウム「持続可能な開発とGNH」







「懐かしい未来:ラダックから学ぶこと」パタゴニア目白店




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