今年傘寿(80歳)を迎えた中村芝翫が、10月の歌舞伎座昼の部で女形舞踊の人気曲「藤娘」を踊っている。「病弱でしたのに、よくここまで生きたなあと思います。お陰様であまり足腰が衰えていないものですから、そんなにみっともない踊りを、お見せしないで済むのでは」
藤の精が娘のさまざまな姿を踊りで見せるのが趣向だ。芝翫が師と仰ぐ、踊りの名手でもあった六代目尾上菊五郎は、中で用いる曲を「藤音頭」に改めて装置も変更し、古典の「藤娘」に新しい命を吹き込んだ。芝翫も先代藤間勘祖振り付けによる六代目式の踊り方を踏襲している。
「先代勘祖が踊りの師匠になられてから初めて振り付けられたもので、藤間宗家ではとても大事にしていらした。振りも7通りくらいあるとうかがっています。78年2月に歌舞伎座でつとめた際、勘祖は『一番難しい振りで踊ってちょうだい』とおっしゃいました」と懐かしむ。
舞台げいこで芝翫の踊りを見た先代勘祖は大変に満足し、「気に入ったから一晩中かけて描いたのよ」と言い、自筆の藤の花の色紙を渡した。色紙は歌舞伎座の2階に展示されている。
「男性に対する思いなど、娘の心境を見せる踊りですが、私の目標とする六代目はすごくかわいらしかった。お酒を飲んで酔ったしぐさをしますが、ぐでんぐでんになっては、間合いがこけてしまうので具合が悪い。六代目は『魚屋宗五郎』などの芝居でも、酔っぱらいの動きが非常にうまかったですね」
26日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年10月6日 東京夕刊