【ニューヨーク小倉孝保】潘基文(バンギムン)国連事務総長が、劣化ウラン弾の影響に関する報告を初めてまとめたことで、国際的な規制に向けた議論への足掛かりができた。しかし、国連総会は昨年、影響調査を求める決議を採択したにもかかわらず、米国はじめ劣化ウラン弾を保有する国々はこれを無視し、協力しなかった。包括的規制がいかに難しいかを見せつけたと言えそうで、今後、協力国の拡大が課題になる。
劣化ウラン弾については昨年、非同盟諸国から使用の一時禁止を求める声が強まり、当初、総会第1委員会(軍縮・安全保障)に提出された決議案には「一時使用禁止」の条項が入っていた。しかし、欧米などの反対が強く、最終的に「調査決議」で落ち着いた経緯がある。
今回の報告では、ボスニア・ヘルツェゴビナが健康被害の可能性を指摘し、国際原子力機関(IAEA)や世界保健機関(WHO)も残留した劣化ウラン弾に直接触れないよう対処すべきだと訴えた。このため、6日から始まる総会第1委員会で、非同盟諸国から「一時使用禁止」を求める動きが改めて出る可能性がある。
しかし対人地雷やクラスター爆弾と比べ、劣化ウラン弾は健康や環境への直接的な影響を確認しにくいのが特徴だ。劣化ウラン弾が健康被害につながったと多くのイラク住民や米兵が訴えているが、米政府などはイラク住民については「栄養・薬品不足」、米兵については「戦争中のストレスなどが原因とも考えられる」とし、劣化ウラン弾の直接的因果関係は認めていない。
今回、総会決議にもかかわらず安保理常任理事国とインド、パキスタンなどの核保有国、イスラエル、エジプト、サウジアラビアなど、劣化ウラン弾を保有するとみられている国のほとんどは劣化ウラン弾への意見を軍縮局に提出しなかった。決議には強制力がなく「努力目標」的意味合いが強いためだが、決議への真剣な対応を求めていくことが議論を深める一歩となる。
毎日新聞 2008年10月3日 東京朝刊