防衛省が、防衛秘密にあたる情報を読売新聞記者に漏らしたとされる同省情報本部の1等空佐を懲戒免職処分にした。報道機関への情報提供を理由に自衛官が懲戒免職になったのは初めてである。
処分がニュースソースである公務員を萎縮させ、ひいては国民の「知る権利」や「報道の自由」を損ねる事態につながることを憂慮する。
報道機関の取材は、ときに国家秘密を探ることにも力が注がれる。重要な判断材料を国民に提供し、その知る権利に応えるのが使命だからである。こうした取材については、1978年に最高裁が「真に報道目的であり、手段・方法が社会観念上認められる範囲なら、正当な業務行為で違法性はない」と判断し、報道機関の立場に理解を示した。
一方で、公務員には法律が守秘義務を課している。自衛隊法では特に重要な情報を「防衛秘密」とし、漏らした場合の罰則も重い。もとより、防衛省・自衛隊が安全保障に関する機密情報を所有し、その漏洩(ろうえい)が国益を害する危険は考慮しなければならないのは当然だ。
しかし、何が「防衛秘密」にあたるのかについては、厳密なチェックが防衛省には求められる。「秘密」がどんどん膨らめば、自衛隊の活動への国民の理解や信頼をかえって妨げることにもなるからだ。
問題になったのは、中国海軍潜水艦が南シナ海で火災とみられる事故を起こし、浮上してえい航されているという2005年5月の読売新聞の記事だ。この情報が「防衛秘密」かどうかには異論も多いのである。
今回、記者の責任は問われておらず、浜田靖一防衛相も処分が国民の知る権利や報道の自由の制限につながるという見方を否定している。しかし、懲戒免職という重い処分が、取材をうける公務員の意識に影響を与える懸念はぬぐえない。
記事の取材源が結果的に分かってしまったことで、今後「国家秘密」が報道された場合、情報源を突き止めようという動きが強まる心配もある。報道機関にとって取材源の秘匿・保護は極めて重い職業倫理である。国民の知る権利に応えるため、私たちも倫理を守り抜く決意を日々あらたにしなければならない。