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社説:派遣法改正案 労働者保護には不十分だ

 低賃金で不安定な働き方を強いる仕組みをいかに改めるか。派遣で働く人々が急増し、働いても貧困から抜け出せないワーキングプアが広がる中、労働者派遣法の改正論議は、そこが焦点だったはずである。

 労働政策審議会の部会が先月、厚生労働省に提出した最終報告はしかし、問題の根本解決につながらず、派遣労働者を守るための制度改正にはまだまだ不十分な内容だ。それどころか、さらに規制緩和が進み、労働者が不利になる要素も盛り込まれた。労働者保護を前面に掲げ、初めて規制強化にかじを切る鳴り物入りのはずの改正案は、派遣労働者の期待を大きく裏切ったといえる。

 改正案の最大の目玉が、日雇い派遣の原則禁止だ。99年の法改正で派遣が原則自由化されたのを機に、派遣元会社に登録して仕事があれば派遣元と雇用契約を結ぶ登録型派遣が広がった。物流や製造業など危険も伴う単純作業現場に1日ごとに低賃金で派遣されるようになった。改正案では、こうした日雇い派遣を、通訳など18の専門業務を除いて禁止し、その禁止対象とする雇用契約期間を1日だけでなく30日以内にする。

 一見、不安定雇用が解消されるかのようだ。しかし、30日を1日でも超える雇用契約を結んでいれば、派遣元はその労働者をこれまでと変わらず単純作業に日替わりで派遣することが可能になる。労働者は30日を過ぎれば雇用が継続されるかどうかもわからない不安な状態に置かれる。最終報告がなぜ、禁止対象期間をわずか30日以内と区切るのか、納得できる説明はない。

 私たちはこれまで、法を99年の改正前に戻し、登録型派遣そのものを原則禁止し、派遣元が常用雇用する労働者を専門業務に限って派遣する方向での改正などを主張してきた。常用雇用なら不安定さは格段に解消され、派遣先を専門業務に限定すれば低賃金の改善にもつながるはずだ。抜本的見直しを改めて求めたい。

 親会社が人件費削減のために派遣会社をつくってグループ企業に派遣する形態が増えているが、改正案では、派遣会社がグループに派遣できる労働者数を8割以下に抑える規制も新設する。しかし、これでは問題のあるグループ企業派遣を8割という高率まで法的に認めることになり、疑問だ。

 一方、現行法は、労働者が3年を超えて同じ派遣先に派遣される場合、派遣先は労働者に雇用契約を申し込む義務を負うと規定しているが、改正案では、派遣元に期間の定めがなく雇用されている派遣労働者については適用を除外する。これにより常用雇用のニーズが高まるはずだという理由だが、労働者にとっては派遣の常態化につながりかねない。

 派遣法の見直しが形を整えただけのまやかしの改正とならぬよう、政治の場で抜本的な議論を望みたい。

毎日新聞 2008年10月6日 東京朝刊

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