昔、一度だけ利用して印象に残った駅舎が、国の文化審議会で登録有形文化財として文部科学相に答申されたと知り、訪ねてみた。津山市堀坂にあるJR因美線美作滝尾駅。
木造平屋で一九二八(昭和三)年の完成。当時の標準的な小規模駅舎で、木製の改札口や切符売り場もほぼ建築時の姿をとどめている。中に入ると、数十年も時をさかのぼった気分になった。
九五年、映画「男はつらいよ」の最終作「寅次郎紅の花」のロケに使われた。本紙津山市民版の記事によれば山田洋次監督が駅舎を下見して予定が変更され、渥美清さん演じる寅さんの出演が実現したそうだ。
無人駅だがきれいで、管理や清掃に当たる町内会の人々の愛情が感じられた。ホームの向こうにはのどかな田園風景。重苦しい世相をしばし忘れて伸びをしていると、一両だけのかわいい車両が入ってきた。
高校時代に毎日使った駅はここと違ってもう駅舎もないけれど、ホームのれんが積みは健在だったように思う。久しぶりに行ってみようか。はるかな十代の気分がよみがえってくるかもしれない。
思い出すたびに心を温かくしてくれる懐かしい建物などが、誰にもあろう。行楽の秋、再会の旅としゃれてみてはいかが。自分だけの心の文化財として、あらためて登録するために。