迷走していた米国の金融危機対策のための緊急経済安定化法が成立した。米下院本会議がいったん否決していた当初法案の修正案を賛成多数で可決したことによるものだ。米国発の金融危機打開に向け、ようやく第一歩を踏み出した。
ブッシュ米大統領は声明で「われわれの経済を脅かしている信用収縮を和らげる断固たる行動となる」と述べ、金融不安の解消に期待を表明した。しかし、危機沈静化には一定の時間が必要とみられ、米景気と世界経済にはしばらく予断を許さない正念場が続きそうだ。
同法は、最大七千億ドル(約七十五兆円)の公的資金で不良資産を買い取る制度を柱としている。サブプライム住宅ローン問題に端を発した金融不安が深刻化する中で、事業者や預金者を安心させて預金の過度な引き出しを防ぎ、米金融システムの信頼を回復させるのが狙いだ。
下院は当初法案を共和党を中心とした反対で否決し、世界的な市場動揺の引き金となった。ブッシュ大統領は緊急声明を発表、これを受けて上院が修正案を可決、下院にも迅速な可決を呼び掛けていた。
修正された法律では、七千億ドルの公的資金枠のうち、まず二千五百億ドルを支出し、大統領判断で一千億ドルが追加できる。残り三千五百億ドルは議会の承認が必要としている。預金保護の上限引き上げや、法人・個人向けの税制優遇拡充も追加し、金融機関の救済色が薄められた。
前例のない巨額な公的資金の投入である。米政府は四十五日以内に具体的な指針を策定し、サブプライム関連の証券化商品など不良資産の金融機関からの買い取りを、年内にも始める見通しだ。今後の焦点は、不良資産の処理がいかに迅速に進むかに移ってきたといえよう。
問題はこの買い取り制度がうまく機能するかどうかだろう。取引が成立せず評価が難しい証券化商品が対象だけに作業は困難が予想される。米金融機関が不良資産を、追加損失を出さない金額で売却できるかどうか。処理過程では資本不足に陥る金融機関が増加することも確実視されている。
米証券大手のリーマン・ブラザーズの経営破たんを機に、金融機関の破たんや再編が加速している。金融不安は欧州に飛び火し、日本経済への影響も避けられない見通しだ。金融法の成立による効果は不透明で前途多難だが、危機の連鎖は何としても食い止めねばならない。動揺する国際金融システム回復と市場の安定化に向け、米政府は責任を持って対処すべきだ。
JR岡山駅で岡山県職員を線路に突き落として死亡させた十八歳少年を、岡山地検が殺人などの罪で起訴した。少年は法廷で刑事責任を問われる。
起訴状などによると、少年は三月二十五日午後十一時五分ごろ、普通列車がホームに到着直前、帰宅途中の職員の背中を両手で押して線路に突き落として殺害した。これまでの調べに少年は「人を殺して刑務所に行こうと思った。誰でもよかった」などと供述している。無差別殺人であり、たまたま居合わせた職員が犠牲になった。あまりに痛ましい。
岡山地検は、起訴理由を「少年であることを含め、証拠類を総合的に判断した」とし「刑事責任能力も問題ないと考える」と説明する。公判では犯行時の精神状態などが慎重に審理されることになろう。厳正に刑事責任を問うとともに、少年がなぜ衝撃的な事件を起こしたのか、根っこにある問題を明らかにしてもらいたい。
少年の検察官送致(逆送)を決定した大阪家裁は、動機を「父親に見放されたと思い込み『遠くに行きたい』『人と隔絶された場所に行きたい』と考えるうち、刑務所に入ろうと決意し、そのためには人を殺せばいいと考えるようになった」としている。事実ならあまりに短絡的である。
家裁は、確実に刑務所に入る方法として殺人を着想し、これにこだわり続けた少年の特性が強く作用したとも言っている。本当に刑務所願望が殺人と直結したのだろうか。
「誰でもよかった」と供述する理不尽な事件が後を絶たない。岡山駅突き落とし事件の裁判を通し、少年の特性や成長歴などの影響を社会が学ぶことが大切であろう。悲劇を防がなくてはならない。
(2008年10月5日掲載)