ネットから大きなうねり
《名古屋のフリーチベットデモ》

 「中国政府によるチベット弾圧に抗議するデモ行進」が19日に名古屋市中区で行われた。インターネットで声が上がり約500人が集まり、学生からOL、クリスチャン、仏教僧などさまざまな職業・世代のスタッフと一般参加者が「チベットに自由を」と訴えた。これまでとは一味違うデモの形を追った―。(広)

■国境なき祈り500人
 
発端はインターネットだった。巨大掲示板「2ちゃんねる」やネットサービス「mixi」でチベット弾圧への強い思いを抱いた初期スタッフ5人が3月末に集合。代表を務める豊田市の自営業林英樹さん(34)を中心に、関西でのデモに一般参加したメンバーの意見やネットでの助言で打ち合わせを進めた。

 しかしデモまでの道のりは順調とはいえなかった。4月初旬にチベット人を含む十数人で集まった際、スタッフが「こういう表現はやめよう」と差別語や不快用語への注意を促すチラシを配布。するとチラシに対して「デモをよく知る市民」らが極度に反応。その場にいたチベット人に「こんなのを配る怖い人たちに頼める?」と説き始めた。スタッフは誤解を解こうと説得するが「デモをよく知る市民」らとは最後まで意見が合わずに分裂。口論の中で相手が放った「この素人が―」の言葉が、いつまでもスタッフの耳に残った。
 一方、様子を見ていたチベット人がおびえ始める。必死に事情を説明すると「ネットに対する不信感はあるが、今はあなたたちを信じる」と理解を得ることができた。林さんは「救われた気持ちでしたね」と振り返る。

 団結力が増し、デモに向けて急いで準備を進める。器物破損に対する保険はスタッフで参加していた専門家に一任、子ども連れやチベット人らの班分けも話し合った。中でもスタッフが頭を抱えたのが警察への届け出だった。

 林さんらは管轄の中署へ熱心に相談。「何かあった場合に1人が抑えられるのは10人が限度」(中署)とアドバイスをもらい、スタッフ数から最大約650人の規模を設定。やり取りはネットを通してほぼ公開。デモに参加した1人は「まるで警察がデモの仕方を教えているようだった」と笑顔で語る。中署は「手続きをしっかりして事故やけがの防止に努める体制は必須」と言い未経験者らによるデモの混乱を危ぶみ、スタッフ統制の重要さを語る。

 ネットでの召集は悪質な行為も予想される。署名やアンケートを募って個人情報を集めたり募金を行って私益とするケースが考えられるからだ。「最初に署名も募金もなし、すべてをオープンでいくことを表明した」と林さん。結果としてこの姿勢が大きな賛同を呼ぶ。ある日、4月初旬に分裂した最初期メンバーの1人が「純粋な気持ちで参加したい」と申し出。十分に話し合い、和解して共にデモへ臨んだ。

■「声上げるだけ」
 当日は晴天に恵まれ、約500人が参加。名古屋市内を2キロにわたって声を上げ、事故やけが人もなく安全に終わることができた。「規制が多くてがんじがらめのデモ」とネット上での批判もあったが、代表補佐の学生(20)は「逆にシンプルで分かりやすくなったのが良かった」と話す。
 またネット発のデモならではの問題も。スタッフでさえ当日まで集客力を把握できなかった。中署は「実際現場に行くまで分からない部分はあった」と神経質になっていたことを明かす。

 デモ直後は自然に掛け声が上がるほどの熱気。女性スタッフは「わたしたちは声を上げるしか分からなかった。それを一生懸命やっただけ」と感慨深く話す。雑多なネットの世界から始まった一つの思いは、大きなうねりへつながっていく。


【写真説明】ネットを通じた声が大きなうねりとなったデモ行進(19日、名古屋市中区)

(2008年4月23日更新)


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