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随想 大麻




大麻

 

 大麻は多くの顔を持っている。植物、クワ科の一年草、麻の繊維、日本の伝統的作物、そして麻薬、大麻パーティー。

 伊勢神宮を参拝した時に頂いたお札にはこうある。
「天照皇大神宮大〃御神楽祈祷大麻」

 一体、大麻とは何だろうか?

 大麻は日本人には麻薬としての効用が無い。第一に麻薬としての薬効がなく、第二に純粋な薬物としての習慣性は無い。だから麻薬ではない。それではなぜ法律的に麻薬に指定されているのかというと、戦争に負けた後、日本がアメリカに占領され大麻が麻薬に指定されたからである。

 世界で大麻を麻薬として指定しているのは、アメリカ、カナダ、日本など数カ国に過ぎない。イギリスやドイツも一時は麻薬に指定したが、その後、科学的に麻薬ではない物を麻薬に指定するとかえって社会が混乱するという理由で、解除している。

 ではなぜ、太古の昔から大麻を繊維として大量に使用してきた日本が、この前の戦争が終わったあと、大麻を麻薬に指定しているのだろうか?それはアメリカに占領されていたからである。そして、まだ日本は完全にはアメリカから独立していないところもあるので麻薬の指定は解除されない。

 それに加えて、日本のマスコミは勉強をしない。お上主義である。その一方で、NHKが受信料金不払い運動を受けて、「公共放送とはなにか?」という番組を積極的に放送しているが、これは大変良いことである。その中でイギリスの公共放送であるBBCは常に政府に対して反抗的で、それこそが公共放送の存在意義と言っている。

 そのNHKでも「大麻は、日本人にとって麻薬ではない」という報道はしない。それより、芸能人が大麻パーティーを開いたと知ると、マスコミはどちらかというとその芸能人のバッシングに走る。

 大麻は麻薬性が無いので、吸っても美味しくも気持ち良くもならない。習慣性も無い。タバコやお酒の方がずっと麻薬性が高い。それなのに、なぜ芸能人は「大麻パーティー」を開くのだろうか?

 大麻が法律で禁止される前、つまり昭和23年まで、日本では太古の昔から大麻が使われていたが、だれも「パーティー」を開かなかった。それが「法律で指定された」瞬間からパーティーが出現するようになったのである。

 つまり大麻は「学問的には麻薬ではないが、法律的に麻薬にすると、社会的に麻薬になる」という植物なのである。

 そして、大麻の問題を考えるには、まず「なぜ、日本には昔から大麻があったのに、大麻が麻薬として使われなかったのか?」という質問に答えなければならない。日本で使用されていた量は大量であり、使われ始めたのは奈良時代より前であることも判っている。

 日本には「麻」とつく名前が多いが、日本で麻と言えばほとんどが大麻だった。特に大麻の繊維は強く、光沢も良く、神社などに多用されるように魔よけの力もあるとされていた。でも、麻薬としては使用されていない。

 麻薬というのは実に不思議な物で、二つの特徴がある。一つは、
「ハイな民族は沈む麻薬を好み、いつも落ち込んでいる民族はハイになる麻薬を好む」
という傾向である。日本ではさしずめ、お酒、タバコ、カフェインなどが麻薬に近いものであり、気持ちが静かになる麻薬はあまり歓迎されない。民族性があるからである。

 もう一つは、大麻パーティーに代表されるように
「社会的麻薬」
という作用である。複雑な社会に住む人は、そこから逃れようという心理が常に働いている。だから何万人に一人ぐらいは常に麻薬にその人生を没する。そのような人は麻薬を使う前に、すでに強い心理的圧迫感の中にあるので、「規制されている」「麻薬だ」という暗示にかかってしまうのである。

 日本はすでに、大麻を麻薬に指定して50年以上も経つ。こうなると、本来は麻薬ではなくても麻薬としての錯覚を覚え、本当に麻薬として使用されてしまう。習慣性は薬物としての自然の習慣性ではなく、社会的な心理的習慣性が問題となる。

 アル中だから酒から抜け出せないというのではなく、酒場に行って一杯やらないと気が済まないという意味でアルコールに依存するというのと似ている。

 だから、今になって正常に戻すのはきわめて難しい。すでに大麻が麻薬と信じている人、すでに毎晩、酒場に通わないと生きていけないのと同じく、大麻を吸わなければ過ごせない心理的常習者がいるからである。

 実は、麻薬がなくても、人は自立して平穏に生きることが望ましい。それには、精神的に弱い人でも自立することができる暖かい社会が必要であると私は思う。大麻を吸う芸能人は可愛そうな存在なのだ。

おわり


武田邦彦



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