男女共同参画基本計画をこの人に聞く
目指すのは男女共同“家族・社会”です(5)
内閣府政務官 山谷えり子
聞き手/大学講師 猪野すみれ
母乳育児を見直そう!
−−基本計画の「生涯を通じた女性の健康支援」の章に、「母乳育児普及」という目標が入っております。政務官もご自身のホームページで、母乳育児などの施策について言及されておられます。
山谷 母乳育児の大切さについてはもっと語られていいと思います。母乳を通して糖分やミネラル、脂肪分などいろいろな成分が赤ちゃんの体の中に入っていきます。免疫力も高める母乳の成分は赤ちゃんの成育によって自然と変わるんですよ。出産一日目の母乳と一カ月目の母乳、六カ月目の母乳は成分が全く違います。生命の神秘です。赤ちゃんがその時々に必要なものをお母さんの体が作ってくれているのですね。母乳で育った子は感染症にも強いといわれています。糖尿病など成人病リスクを減らすこともわかってきました。母乳は一生分の健康の土台をつくってくれているんです。
ただ、哺乳瓶でミルクを与えるのと違って、母乳は詰まったジョウロみたいなもので、なかなか出ないのです。赤ちゃんが一生懸命に吸って吸ってまた吸って、やっと出る。だから赤ちゃんの肺も筋肉も発達するんですが、その分、一度に多量をお腹の中に入れることができないので夜中であっても二時間おきぐらいに泣いて、一回の授乳に四十分近くかかってしまう場合もあります。これに対して、穴が大きくて赤ちゃんもごくごくと飲める哺乳瓶だと、十分から十五分でお腹がいっぱいになり、そのあと何時間も寝てくれる。産院の人手不足から、また母親自身が面倒がるために、出産後にミルクを与え、赤ちゃんが母乳を飲まなくなるケースが増加しています。
母乳育児は母親にとって大変です。六カ月、九カ月と母乳をあげていると職場復帰も遅れます。働く女性で手間のかかる母乳育児は職場復帰などにも障害となると考える人もいます。アメリカでは一九七〇年代に母乳育児をする母親が二割にまで下がりましたが、これはフェミニズムの影響もあったとされています。「女を赤ちゃんに縛り付ける」「社会進出を妨げる」と否定的にみられたんですね。
けれども母乳育児の大切さは世界的に見直され、韓国では母乳育児率が一時は一五%まで下がりましたが、国家プロジェクトにより六五%まで上げることに成功しました。ニュージーランドは現在母乳育児率が九〇%です。山口県光市では「おっぱい都市宣言」を発表し、女性議員の努力により母乳育児が現在七割弱まであがってきたということです。
私は三児を母乳で育てましたが、末娘がO157にかかって回復したとき、「母乳育児だったおかげで回復が早かったのかもしれません」と医者に言われました。出張の時、夫は休暇をとって、赤ちゃん連れで私についてきてくれましたが、そうした日々に感謝しました。赤ちゃんのおっぱいを吸う力は母性本能に火をつけます。
日本では、かつて厚生省が母乳育児率を調べていましたが、「三歳児神話」と三歳までの育児の大切さを否定した「厚生白書」を平成十年に出したあと、調査しなくなっています。
もちろん、母乳育児のためには、応援体制を整えなくてはなりません。日本の場合、不妊治療は六百数十カ所で行われていて実質的には世界一ですが、ユニセフとWHOの基準に合格している母乳育児の病院は日本国内で四十施設しかないのが現状です。乳房のマッサージをする助産婦を増やしたり、短時間勤務や育児休業を認める会社の理解も必要です。赤ちゃんが母親のおっぱいを飲めるよう応援しない国は貧しい国です。児童虐待が母乳育児推進で減ったというアメリカの研究もあります。子供の心身の健全な発育の基礎を守ってあげたいと思います。
→つづく
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「正論」平成18年3月号 |
論文
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