ギャンブルに懸ける男たちの戦いを描くアニメ「闘牌伝説アカギ」「逆境無頼カイジ」に主演、「冬のソナタ」のペ・ヨンジュンさんの吹き替えなど、声優としても活躍する俳優の萩原聖人さん。最新作は、「賭け野球」の投手がプロの世界で繰り広げる心理戦を描いた異色の野球マンガが原作の「ワンナウツ」(日本テレビ系で7日から毎週火曜日深夜0時59分放送)だ。主人公・渡久地東亜(とくち・トーア)を演じる萩原さんの思いを聞いた。【立山夏行】
--萩原さんが演じる渡久地東亜とは
萩原 賭け野球「ワンナウト」で一度も負けたことがない投手だったのですが、「埼京彩珠リカオンズ」の児島弘道に負けて、1アウト取るごとに500万円、1点取られるごとにマイナス5000万円という異色の「ワンナウツ契約」でリカオンズに入団することになります。抜群のコントロールと、心理戦の駆け引きにたけているキャラクターです。
--これまでの「アカギ」や「カイジ」と比べると?
萩原 たぐいまれなギャンブルの才能を持ったアカギは、クールで無口なキャラクターということもあって、ダークな印象を持った天才でした。一方、カイジは一見凡人に見られますが、実は普通の人の心を持ち合わせた「気付きの天才」だと思っています。東亜は、人の心を操る「心の天才」です。カイジは失敗を重ねて結論にたどり着くタイプですが、東亜は最初に結論を出して、そこへの道筋をたどっていくという点で、アカギに近い部分はあると思います。
--アニメの声優についての印象は
萩原 だれでも子供のころはアニメを見て育っているはずですし、アニメは子供時代の原点だと思っていたので、以前からあこがれの世界でした。また、マンガ原作のアニメでは、キャラクターのイメージはファンによって千差万別ですが、アニメ化された時にどれだけファンのイメージに近づけるかという意味でもやりがいのある仕事ですね。
--声優の苦労や楽しみは
萩原 第一に、自分のペースでしゃべれないというのは大きかったですね。いかに決められた時間内で自分のペースを作っていくかを見極めるのは大変でした。あと、子供のころに声を耳にしていたあこがれの声優さんと一緒に仕事をするのは、喜びと戸惑いがありますね。今回も飛田展男さんと共演しているのですが、声を聞くと「ああ(機動戦士Zガンダムの主人公)カミーユだ!」とドキドキしちゃいました。
--俳優との違いは
萩原 役との出会いが大事だという点は、俳優も声優も変わりません。役と自分がお互い歩み寄っていける関係を築ければ、いい芝居ができます。一方で、話題性だけで役を振られるのはちょっと厳しいと思います。俳優としての演技では、わざとらしくならない表現の自然さも大切なポイントです。でも、アニメでそれをやってしまうと、絵の強さに負けちゃうんですね。そういう意味では、表現の自然さより、出来上がった作品がどれだけ自然に見えるかが大切です。アニメの東亜が最高の芝居をしていたら、そこに合わせてテンションの高い芝居をしなければならない。そこがアニメの難しいところですね。
--日本語版吹き替えとの違いは
萩原 吹き替えは、元々出来上がっているものに声を入れていくので、それに合わせるしかないんです。上手な声優さんは、それでもさらなるものを自分の持ち味として出すのでしょうが、僕は芝居あっての吹き替えだと思っているのでそこまではできないですね。ペ・ヨンジュンさんの吹き替えは、何度かやっているお陰で、芝居のくせも分かってきたので、大分やりやすくなっています。アニメは、収録段階ではまだ制作途中なのでアニメの方が役に成り切りやすいですね。せりふ一つ取っても、吹き替えでは元の役者さんのトーンに合わせればいいですが、アニメはゼロからのスタートなので、自分で作らなければならない。声の大きさも何もかもすべて自分で考えて演技するしかないんです。その分、出来上がった作品を改めてみた時の感動はひとしおで、映画が出来上がった時と同じぐらい感動しますね。
--俳優がアニメの声優に挑戦して違和感があることもありますね
萩原 役者は最初、演技を「大きく作る」ことに抵抗があるんですよ。「うん?」とか「え?」といったアドリブのせりふが言えないんです。アニメでは、それを言わないと、出来上がったものがとても平べったい感じになってしまうんですね。普通にお茶を飲んでいるだけのシーンでも、「普通に」やってはだめなんだと思います。カイジもそうでした。一見凡人に見えるからこそイメージ作りがとても難しかった。第1話では「なぜか俺のカイジには奥行きがないんだよなあ」とずっと悩んでいたんですが、3話の「限定ジャンケン」で一度はじけ出したら後は止まらなくなりましたね。
--ワンナウツの見どころは
萩原 野球好きな人は無条件で面白いと思いますが、東亜のキャラクターとしての魅力が圧倒的なので、そこから引き込まれる人も多いでしょうね。ワンナウツを見てから改めてプロ野球を見ると、全然違う見方ができると思いますよ。「情熱大陸」なども手がける窪田等さんが担当するナレーションとの相乗効果も楽しんでください。
2008年10月5日