国会の代表質問が終了した。民主党への批判や質問を連ねた麻生太郎首相の所信表明演説を受けて小沢一郎民主党代表が質問に立ち、重要政策をめぐる違いが鮮明になった。だが、党首対決の議論はかみ合わず、その後もずれを埋め切れなかった。消化不良の感は否めない。
首相は所信表明演説で民主党の国会対応をただすなど対決姿勢を示した。小沢代表は「所信を述べることで答弁としたい」として挑発に乗らず、その結果双方が主張を述べ合い、平行線をたどることになった。
景気対策と、その裏付けとなる二〇〇八年度補正予算案については六日からの衆院予算委員会で実効性を高める議論が求められる。だが、その他のテーマについても突っ込んだ議論が聞きたい。小沢氏の質問が所信表明の形を取っただけに重要な論点が幾つもあるからだ。
社会保障制度では年金の財源が悩ましい。消費税収全額を年金財源にするとした小沢氏に対し、首相は「どう安定させるか年末までに結論を得る」と述べるにとどまった。基礎年金全額税方式の持論を封印した理由をただした他議員の質問にも明確に答えていない。後期高齢者医療制度でも一年をめどに見直しを検討するとした首相と、廃止論の小沢氏がすれ違った。
外交・安全保障分野では「日米同盟と国連のどちらを優先するか」と迫った首相に、小沢氏は「同盟関係と国連中心主義は矛盾しない」と原則論を述べただけだ。海上自衛隊の給油活動延長問題に対する小沢氏の明確な考え方を知りたい。首相はその後、自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法制定に前向きな考えも表明した。
小沢氏は子ども手当や農業の戸別所得補償制度創設などを訴え、政策実現の財源に二十兆五千億円を確保するとした。特別会計や独立行政法人の原則廃止で捻出(ねんしゅつ)するという。以前に比べ具体的にはなったものの、自民党が「恒久的財源が必要なのに不十分」と批判する通り依然説得力に乏しい。より詳しい説明を聞きたいところだ。財政問題では後に首相が触れた特別会計の積立金など「埋蔵金」をどう扱うかも大きい。
代表質問で出てきたこれらのテーマはいずれも日本が抱える重い課題である。それだけに、国会の場でより議論を深めることが今後の道筋を探る上で役立つのではないか。
二大政党のトップはあらためて党首討論などの場を設け、意見を戦わせてはどうか。総選挙に向け、有権者に判断材料を提供することにもなる。
「防衛秘密」にあたるとする情報を新聞記者に漏らしたとして、防衛省は一等空佐を懲戒免職処分にした。省内の綱紀粛正や軍事情報の共有化が進む米国への配慮が目的だろうが、「国民の知る権利」や「取材・報道の自由」を妨げかねない多くの問題をはらんでいる。
防衛省によると、一佐は二〇〇五年五月に中国海軍の潜水艦が南シナ海で起こした火災とみられる事故の情報を読売新聞記者に漏らしたという。
読売新聞は火災前後の状況などを「日米両国の防衛筋が確認した」と報道した。自衛隊内部の捜査機関である警務隊は、自衛隊法(防衛秘密漏えい)違反容疑で一佐を書類送検した。
今回の処分は、とにかく異例尽くしである。外国のスパイへの情報漏えいで自衛官が懲戒免職された前例はあるが、記者への情報提供での懲戒免職処分は初めてだ。
書類送検を受けて捜査している東京地検が刑事処分を決める前に、極めて重い処分に踏み切るのにも疑問が残る。もし不起訴になったら、防衛省はどうする気なのだろう。
さらに、そもそも漏らしたとされる情報が、国益を損なう重要な防衛秘密に該当するような内容なのか。日本近海での潜水艦事故は国民に知らせるべき情報であり、防衛秘密に当たるとは思えない。
今回の処分は、日米の軍事的一体化を背景に情報統制を強化する防衛省が“見せしめ”的に行った感が強い。報道機関への情報提供や内部告発を萎縮(いしゅく)させるおそれがある。
民主主義が健全に機能するために必要な「国民の知る権利」などを脅かす危険性が高い。内部捜査を含めスパイ事件並みに扱う一連の対応は、内容からみて明らかに行き過ぎである。
(2008年10月4日掲載)