ホーム > 報道・広報 > 2008年aff(あふ)10月号 > 08年9月号目次 > にっぽんの伝統食をたずねて「食の記憶」第4回 -3/3-
焼き干しイワシの銀屏風。薄い尻尾を焦がさず、芯まで火を通すのが焼きの秘訣。尻尾が隣に重なるように、炭の火がおき火になったら、ぐるりにイワシ串を立てて焼く。
炭のおき火で焼き4、5日天日で干しあげた焼き干し。かつてはヒバの木箱に詰めて、海路を2時間かけて青森まで持っていったそうだ。陸路よりずっと早い。密閉容器に入れ冷暗所で1年間うまみを保つ。 |
イワシはその日のうちが勝負
手早くおき火であぶって天然のうま味を封じ込める 港ではブルーシートを広げ、発泡スチロール箱の椅子に座って、焼き干し作りの焼き子たちが待ち構えていた。みな近在の漁師のかあさんたちだ。 さすが数十年選手、胸のすくよな早業。 まだ跳ねている小イワシをつかんで、頭をもぎ取り内臓を出す。包丁は使わない。 世間話に花を咲かせながら、手だけがよどみなく動く。味もつけないから、鮮度が勝負。手際の良さこそおいしさの秘訣だ。 下ごしらえの済んだイワシが干場に並ぶと、やっと朝の太陽が山の端から顔を出す。 しんなり乾いたら取り入れ、竹串に刺していよいよ炭火焼き作業。焼き子たちはほっかむり、口当て、長袖シャツに軍手、綿入れのちゃんちゃんこを後ろ前に着込んだ完全武装でとりかかる。 あおぎにあおいで炭をおこし、おき火になるまで待って火のぐるりに串をたてる。 わずか数分でイワシの銀屏風が、ぷちぷちと密かな音をたてる。その香ばしい匂いが、腹の虫を揺り起こす。こんがり熱々のうまいこと! さらに4〜5日仕上げ干しして、太陽光と風でうま味を封じ込めてしまう。 頭をとり、半日干して取り込んで、几帳面に大きさを揃えて串に刺し、朝、浜に出して夕方取り込んで……。 決して主役になることはないだし魚に、かあさんたちは手間ひまを惜しまない。一つひとつが丁寧な仕事の積み重ねだ。仕上がった焼き干しは銀色に光って、作品と呼びたいくらい美しい。 いまどき希少な昔ながらの焼き干しが、うまくないわけがない。 冬に備えて、イワシが脂肪を蓄え始める11月初旬には、焼き干し作業もおしまい。 秋の深まりとともに、イワシも陸奥湾を後に南下していく。 |