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【コラム】盧武鉉流「相手の立場で考える」(下)

 例えば独島(日本名竹島)をめぐる問題について日本の立場で考えれば、独島を日本に差し出すこともあり得る。問題食品に関して中国の立場を理解する余り、韓国国民が病気になってもよいのか。自由貿易協定(FTA)をめぐり米国の立場で問題を考えれば、韓国はFTAを結ぶ理由がなくなる。相手の立場で思考することが、外交交渉や安全保障協議で戦術の一つとして使われることはある。駆け引きの過程では相手の立場に立つふりをすることもあり得るということだ。しかし、そういうやり方が外交・安保協議の本質になることはあり得ない。

 韓国は北朝鮮の立場で何を、どう考えなければならないのか。北朝鮮に食糧を支援したとき、それが軍部にまず流れることは「先軍政治」(軍事優先の政治)という北朝鮮の状況からして避けられない、と考えるまではそうかもしれない。しかし、盧武鉉前大統領が核兵器開発の動きを相手の立場で考えるとは驚天動地の出来事だ。北朝鮮は韓国の潜在的な主要敵国だ。盧武鉉前大統領は講演で主要敵国という概念自体を認めていないが、韓国が軍事境界線に兵力と火力の大部分を配備していることは北朝鮮による挑発に備えるものだ。北朝鮮も南を狙って長距離砲など武力のほぼ全てを投入している。韓国を侵略するとすれば、それはほかでもなく北朝鮮だ。主要敵国は概念ではなく現実なのだ。

 北朝鮮の戦争遂行能力のうち、韓国が最も恐怖を抱くのは当然核兵器だ。そのため、盧武鉉政権も韓半島(朝鮮半島)の非核化までは捨てられなかった。その上、北朝鮮は韓半島で実際に戦争を起こした前科がある。そんな北朝鮮に対し、そして核兵器に対し、われわれが緊張の糸を常に緩められない状態にあるにもかかわらず、盧武鉉前大統領は北朝鮮を、北朝鮮の立場で理解しようと主張した。真っ先に被害を受けるのはわれわれであり、もしかすると大韓民国の滅亡を招きかねない状況での発言だ。北朝鮮の立場で考えるということは、われわれにとって反安全保障的行為にもなる。

 盧武鉉前大統領が相手の立場での思考を強調するならば、なぜ彼は北朝鮮問題を韓国と韓国の立場で考えないのか。彼はなぜ李明博政権には相手の立場で考える恩恵を与えないのか。北朝鮮側に立った思考はもはや限界に来ており、反響がない一方的な配慮もこれ以上意味がない。前任の会社経営者が取り交わした約束のせいで会社が滅びかねないと判断すれば、後任の経営者が別の選択をすることもあり得る。自分だけが正しいと考える前任者の高慢さは7カ月たった今も変わっていない。

金大中(キム・デジュン)顧問

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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