◎ラッピングバス 街の楽しさ引き出したい
金沢市内で今月十四日から走行する「ラッピングバス」は、社会実験として実施する意
義は大いにある。車体全体に広告をあしらうため、市は屋外広告物審査会で慎重に検討を進め、一定の条件のもとで了承したが、街に明るさや楽しさ、活気を感じさせるデザインであれば目くじら立てて規制で縛る必要はなく、過剰な制約はかえって自由な発想を損なう恐れもある。
市は実験期間を二年間としているが、市民や観光客の反応、バス事業者の経済効果など
を確かめ、本格導入を目指してほしい。
ラッピングバスのような動く広告媒体は全国の先行事例をみても都市景観との調和を考
え、デザインを重視する傾向にある。市民が不快と感じるような、けばけばしい色合いや意匠は論外だが、デザイン次第ではむしろ都市景観にとってプラスの効果が期待できる。
金沢市は街全体を「美術館」に見立てた各種プロジェクトを展開している。街角に展示
されたアート作品も見ていて楽しい。そうした近年の金沢の動きをみれば、ラッピングバスも「動く作品」として積極的に評価することができる。それが洗練されたデザインであれば、道行く人の感性も刺激するのではないか。
ラッピングバスは、北陸鉄道が提出したバスのデザインを市屋外広告物審査会が了承し
、九台が走行することになった。歴史的・伝統的地区での走行は制限され、北鉄は兼六園周辺を通らない路線で運行させる見通しである。
審査の過程では一定のガイドラインに沿って、色合いやデザイン構成などが厳密にチェ
ックされた。もちろん金沢の景観を壊しては元も子もないが、ラッピングバスは固定された一般の屋外広告物とは区別して考える必要がある。金沢は全国的に後発組となるが、実際に走らせてみないことには人々の反応は分からない。それを探るのが社会実験である。
金沢市は公共交通を生かした都市づくりを推進している。バス事業者に料金の割引など
を求めるだけでなく、収益増につながる取り組みも促してこそ、バランスのとれた交通施策となろう。
◎年金記録改ざん 感じられぬ罪の意識
厚生年金の算定基礎となる標準報酬月額の改ざん問題で、改ざんも疑われる不審な記録
が百万件を超える可能性が出てきた。当初の六万九千件から一気に「グレーゾーン」が拡大し、年金減額の被害が広がっている恐れがある。
入力ミスなどで生じた「消えた年金」と異なり、改ざんは公文書偽造などの罪に当たる
違法行為である。舛添要一厚生労働相は社会保険庁の組織的関与を事実上認めている。その広がり次第では行政による前代未聞の不祥事に発展するかもしれない。早い段階から関係者が記録改ざんを証言してきたが、社保庁の記録調査の対応をみる限り、罪の意識や事の重大さの認識はとても感じられない。
社保庁は「機械的に算出した数字で、適正に処理したものも多い」と説明している。だ
が、それが証明できなければ、年金不信は底なし沼の様相となる。調査体制を速やかに整え、全容解明と被害救済に全力を挙げてほしい。
六万九千件については改ざんが確認されたケースの共通項である▽五等級以上の引き下
げ▽標準報酬引き上げと同日か翌日に、厚生年金から脱退処理▽六カ月以上にさかのぼっての記録変更―の三条件を満たした記録として取り出された。今回は一条件でも該当する記録であり、五等級以上の引き下げだけでも七十五万件に上った。
社保庁は六万九千件のうち、すでに年金を受給している約二万人について戸別訪問を実
施するとしている。まずは年金受給者の記録回復が大事である。三条件を満たした記録ほど改ざんの疑いが強いとされ、そこからしっかり確認していく必要がある。
標準報酬を減額したり、加入期間を短く改ざんすれば、会社は保険料負担が減り、社保
庁も納付率が上げられる。今回の不正は双方にメリットがあり、「以前は頻繁に行われていた」との証言もある。だが、実際には関与を認めた職員は一人だけである。職員らが固く口を閉ざし、内部調査の限界も指摘されているが、政府は不安を和らげるためにも全容解明への道筋を明確に示してほしい。