人生で自分の望む道をなんの障害もなく歩める人はそうはいまい。紆余(うよ)曲折があって当然で、それを乗り越えることで人間の深みや味わいが出てくる。プロ野球オリックスの清原選手の引退試合を見て、そう思った 23年前、熱望していた巨人からドラフト指名されず、悔し涙で西武のユニホームを着たのを記憶している人も多いだろう。3冠の獲得こそなかったが、非凡な打撃で西武での11年間に8度のリーグ優勝、6度の日本一に貢献し巨人を見返している 1度受けた心の傷はそうたやすく癒やされるものではない。が、それを表に出さず2度の左ひざの手術にも耐えて戦う姿に、男らしさを感じたものだ 清原選手は41歳。「生きていくのが嫌になった」と大阪市で放火した男や白山市の無差別殺傷男も同年代だ。自分自身ばかりか世の中に甘えた“大人”が増えている。清原選手の生きざまは現実から逃げない強さを教えてくれた 「野球人生は泣いて始まり、最後も泣いたけど、涙の意味は全然違う」。野球に純粋に生きた“無冠の帝王”。人生を投げ出さないという、無形の冠を手に入れたようだ。
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