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【社説】

米大統領選挙 大きな議論が聞きたい

2008年10月4日

 投票まで一カ月と迫った米大統領選挙の副大統領候補討論会が開かれた。未曾有の世界的金融危機のただ中にあって、有権者が期待した米国の威信回復につながる議論は聞かれただろうか。

 民主党候補のバイデン上院議員、共和党候補のペイリン・アラスカ州知事の間で行われた今回の討論では、一躍脚光を浴びたペイリン候補がどのような演説スタイル、政治家としての見識を示すかに関心が集中した。共和党陣営を活気づけた「ペイリン効果」が、最近のテレビでの本人の数々の失言で失われかけていたからだ。

 ペイリン氏は緊張感を隠せなかったものの、マケイン候補のイラク米軍増派、減税継続など内外の政策について自信に満ちた表情を崩さず淀(よど)みなく発言した。用意した原稿に目を落とす回数が目立ったとはいえ、決定的なミスに通じる発言はなかった。

 一方のバイデン候補は上院外交委員長も含む三十六年間の豊富な議員歴を背景に、オバマ候補の政策全般を丁寧に、具体的に説明した。高圧的な印象を回避するためか、ペイリン氏が直接答えなかったマケイン氏の金融規制緩和政策へのかかわりについても深追いしなかった。

 今回の討論が異例の高い関心を集めたのは、未曾有の世界金融危機という状況下、上院で金融経済安定化法案が通過したとはいえ、下院での審議を翌日に控えたタイミングで行われたためだ。それは長い大統領選挙の深層に流れる大きなテーマにもつながる。

 政府による金融システム救済は米国、特に保守層が最も警戒感を抱く自由経済への国家介入を意味する。冷戦終結後、社会主義は崩壊し、米国は資本主義社会の指導者として君臨したはずだった。それが、米中枢同時テロ後のブッシュ政権下での一極主義が限界を露呈した末に方向転換を迫られることに通じる。

 いったん大統領と議会首脳部が合意した安定化法案が下院で否決された背景には有権者、そして議員の間に富裕層への反発とともに、「アメリカの生き方」を揺るがしかねないという根本的な不安があったからだろう。

 米CBSテレビの世論調査がブッシュ現政権支持率22%という厳しい数字を突きつけているのもその表れだ。大統領候補の討論はあと二回残されている。アメリカの威信回復につながる大きな議論を望みたい。

 

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