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社説:厚生年金改ざん 歴代トップの責任も重大だ

 厚生年金保険料の算定基準となる標準報酬月額の改ざんは、いったいどこまで広がっているのか。問題は底なし沼の様相を呈しており、年金に対する信用の失墜は決定的になった。

 厚生労働省はこれまで改ざんの疑いがあるのは6・9万件としていたが、舛添要一厚労相は標準報酬月額が5等級以上引き下げられているケースが約75万件に上ると発表した。あまりにも数字が違うことにあぜんとさせられる。と同時に、国民は「まだあるのではないか」と不信感をもったはずだ。

 厚労相は(1)標準報酬月額を5等級以上引き下げたケースが約75万件(2)同月額を引き下げた日か翌日に加入者の脱退処理が行われたケースが約15・6万件(3)半年以上もさかのぼって引き下げられたケースが約53・3万件あることを明らかにした。先月18日に発表した6・9万件という数字は三つの条件すべてに該当するケースで、野党から個別の件数を明らかにするよう求められていた。

 なぜ最初から、この数字を公表しなかったのか。国民の怒りを恐れ改ざん件数を小さく見せようとしたのなら大問題だ。姑息(こそく)な手段でその場しのぎをしたとすれば、信用を失うだけだ。

 「改ざん件数は、こんなものではないはずだ」という指摘に、厚労相はどう答えるのか。例えば、同月額の引き下げが3等級や2等級のケースにも改ざんの可能性はあるだろう。さらに調査の対象期間にも問題がある。調査はコンピューター記録がオンライン化された86年3月以降の1億5000万件が対象だが、それ以前にも改ざんはあった可能性があるからだ。調査に対するこうした疑問に対して、納得できる答えを示してもらいたい。

 社会保険庁が取り組むべき課題は、まず改ざんの疑いのあるケースをすべて明らかにすることだ。その際、改ざんが疑われる事例の絞り込みについて、明確な条件を設定して行うべきだ。それを受けて、個別ケースについて改ざんの事実確認を行い、被害者救済を急ぐ必要がある。

 改ざんを疑われる件数が相当数に上ったことで、社保庁の信用は地に落ちた。舛添厚労相は改ざんについて、社保庁の組織的な関与があるだろうと述べている。これまでも指摘したが、組織ぐるみでの改ざん疑惑について事実を解明し厳正な処分を行うべきだ。

 改ざんによる最大の被害者は国民だ。高齢期の暮らしを支える大事な年金が減額されたのでは、たまったものではない。

 不祥事を放置し国民に重大な被害を与えた責任は、当事者だけでなく、厚労省と社保庁の歴代幹部にも取ってもらわなければならない。退官したのだから、責任はないとは言わせない。社保庁をここまでお粗末な組織にしてしまった責任は歴代幹部にも当然ある。

毎日新聞 2008年10月4日 東京朝刊

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