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中国:移動車での薬物処刑
2006/08/20

北京IPS =アントアネタ・ベツロヴァ、7月19日】

 毎年多数の市民を残虐かつ恣意的な方法で処刑しているとの批判にさらされた中国政府が、彼らが言うところの「受刑者のより控えめな処刑方法」を徐々に取るようになってきている。それは、移動車による処刑である。

 人権活動家は、これは公的に組織された移動暗殺隊のようなものになるかもしれない、と主張している。この方法だと、受刑者がより迅速かつ容易に、人々の目から離れたところで処刑されるようになるというだけだ。中国の法務当局は、移動処刑車は死刑執行の方法としては「より人道的なもの」だと反論している。

 双方ともに、これがかつて行われていた公開処刑からの離脱だということは認めている。

 全中国法律家協会刑事委員会のリー・ガイファン副委員長は、「これは中国にとっては間違いなく進歩であり、死刑を宣告された人々にとっても、その他の人々(死刑囚の家族や一般市民)にとっても、より配慮のなされた措置である」「痛みは少なくなり、死刑囚はより早く死に到ることができる」とIPSに語った。

 しかし、人権活動家は、米国の事例を見ると、たとえ薬物注射であっても痛みを伴うと指摘している。

 いくつかの省で1997年に薬物注射法を慎重に初実験して以降、中国18省は移動処刑車を少しずつ導入し始めた。現在、多くの地方でより大規模に展開するようになっている。

 かつて公衆の面前で行われた射殺とは異なり、受刑者は、まるで病院のような環境の専用車の中で処刑される。受刑者は、救急車の担架に似たベッドに縛り付けられ、薬物注射により死に到る。致死注射で使用される薬物の内容は北京で調合され、裁判が行なわれる地元の中間裁判所に送られる。

 使用されている車両の正確な数は国家機密となっている。しかし、現在わかっていることは、雲南省だけでも18台の移動車両が使われているということだ。

 中央政府は特定の省に移動車を割り当てる計画だが、どの省に割り当てるかはIPSに対して明らかにしなかった。IPSは、名前を公開しないとの条件で、数名の政府役人とこの計画について話をすることができた。

 射撃隊から致死注射への流れは「中国の刑事訴訟手続におけるたいへんな進歩を物語るものだ」というのは、浙江省最高裁判所長のイン・ヨン氏である。6月に国営メディアに対して語った。

 1997年に雲南省――「黄金の三角形」に接する南西部の後進地帯で、麻薬取引でも有名――で初めて試された移動処刑車は、浙江省など東岸部の犯罪率の急上昇している工業地帯でもいまや利用可能になっている。浙江省では9月1日から使用開始の予定だ。

 人権団体は、中国は世界のその他の地域の合計よりも多い人数の犯罪者を毎年処刑していると主張している。しかし、正確な処刑数は高度な国家機密となっている。アムネスティ・インターナショナルでは、2005年に中国で少なくとも1,770人が処刑されたと記録しているが、実数は8,000人にもなる可能性があるとみている。

 中国の法務当局は、移動処刑車両を中国司法システムの最新の成果だと宣伝している。2008年オリンピックのホスト国となるにあたり、国際的なイメージを高めたいとの政府の思惑があるからだ。中国の報道によれば、個々の移動処刑車の額はおよそ50万元(6万ドル)だという。

 移動車はいまや流行となっている。なぜなら、これまでのように処刑場に移動して死刑を執行する必要性がなくなったし、何よりも安価だからだ。致死注射の場合、執行のためにわずか4名の人員で足りる。他方で、射殺隊を用いる通常の方法では、処刑場とそこへの途上において多数の警備員の配置を必要とする。

 移動車はまた、中国が公開処刑という長きに渡る伝統を捨てたということも意味している。中国は、1984年に国連拷問禁止条約に署名したのち、公開処刑見物の集会を禁じる新規則を発令している。しかし、人権活動家は、1983年に政府が始めた犯罪撲滅キャンペーンである「強く打て」の中でこうした集会が継続して開かれ、さらに1996年に同じものが復活したと指摘している。しかし、外国人が居住している大都市ではそうした集会はもう開かれていない。

 だが、移動処刑車が密かに多くの町に広がり、死刑執行がより容易で迅速なものになるにつれ、人権活動家と死刑反対派の間では、中国政府が、拡大する移植臓器市場へ死刑囚の臓器を供給するために致死注射に頼っているのではないか、との懸念が出てきている。

 中国の病院は1960年代に臓器移植を開始し、公的統計によれば、現在年間1万〜2万件の移植手術を行っている。中国で腎臓移植をすると約7,200ドルかかるが、もし患者がより早く臓器をえるために高額を支払うことをいとわないならば、2万ドル、あるいは5万ドルにすら高騰する。しかし、この額ですら、先進国において臓器移植手術をする場合に比べて何分の一の額でしかない。

 マレーシア・日本・香港・シンガポールから臓器を求める患者が中国に殺到し、臓器ビジネスはいまや、中国の低予算の医療制度にとっては金のなる木である。しかし、新開発の移動処刑車がこの上り調子の臓器市場に関連づけられるのではないかとの疑いが海外では強まっている。「英国臓器移植協会」と「アムネスティ・インターナショナル」は5月、処刑者の臓器を摘出しているとして中国政府を強く非難する声明を出した。

 中国では昨年、8,000件の腎臓移植が行われたが、そのうち、自発的に腎臓が提供されていたケースはわずか270件(全体の4%以下)にすぎない。

 IPSとの電子メールインタビューに答えたシャロン・ホム氏(「中国の人権問題」代表)は、「移動処刑車両の利用により、中国における刑務所関連の既存の問題はさらに悪化している」と述べた。「たとえば赤十字社のような独立の監視者が刑務所や収容所、強制労働所に立ち入ることができないため、臓器売買の闇取引が加速している」。

 中国では、問題となっている個人やその家族からの同意なしに臓器を取り出すことは違法である。しかし、とりわけそうした手術をめぐっては秘密がつきもののため、こうした要件はしばしば無視されているとの批判がある。1984年に発令された規則では、処刑された受刑者からの臓器取り出しは、「厳密に秘密なものとし、好ましくない影響がないよう留意されなくてはならない」とされている。

 中国刑事司法制度に関する英国人の専門家、ロビン・ムンロ氏によれば、中国当局は、処刑された人間の死体を遺族の目を触れさせるのを拒否することを常としており、処刑の後すぐさま火葬にしてしまうのだという。「死体がだびに付されると、臓器が取り出されたとしてもわかりませんからね」。(原文へ

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

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(IPSJapan)

北京IPSのアントアネタ・ベツロヴァより、移動車を利用した中国の新しい処刑方法について報告したIPS記事を紹介します。(IPS Japan浅霧勝浩)







中国政府は、薬物処刑法の採用の理由をその人道性にあると説明しているが、人権団体などは、他に真の理由があるのではないかとみている。それは、薬物で処刑した受刑者から臓器を摘出して他人に移植するということである。公的な統計では、現在年間1万〜2万の臓器移植が行われている。このうち、8,000件が腎臓移植であるが、その中で自発的に腎臓が提供されていたケースはわずか270件(約4%)に過ぎない。資料:Envolverde







人権団体は、中国は世界のその他の地域の合計よりも多い人数の犯罪者を毎年処刑していると主張している。しかし、正確な処刑数は高度な国家機密となっている。アムネスティ・インターナショナルでは、2005年に中国で少なくとも1,770人が処刑されたと記録しているが、実数は8,000人にもなる可能性があるとみている。 資料:Envolverde




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