業績が悪化している米国の自動車大手3社(ビッグスリー)に米政府保証による低利融資を実施する法律が成立した。販売不振に苦しむゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、クライスラーは歓迎しているが、なぜ政府が個別企業支援に乗り出すのか、疑問点は多い。
ビッグスリーは米政府が供与する保証枠を利用して、総額250億ドル(約2兆7000億円)の低利融資を受けることが可能になった。低利融資の表向きの名目は環境対応車の開発資金の供給である。だが、カネに色はついていない。巨額の融資保証によって、3社の当面の資金繰りはある程度楽になるだろう。
政府による支援には、米国内でも異論が少なくない。ビッグスリーの業績悪化は、小型車シフトの遅れなど自らの経営の失敗が招いたものだからだ。環境対応という大義名分があったとしても、政府支援は自由競争のルールから逸脱している。
トヨタ自動車やホンダなど自力で環境対応を進めている企業からすれば、不公平な措置でもある。以前の自動車摩擦で、米国は「官民が一体となって自由競争を阻害している」と日本を批判したが、この言葉はそっくり今の米国に当てはまる。
米議会などには、自動車産業の不振が雇用情勢をさらに悪化させるとの意見もある。だが、自動車産業に従事する人は一昔前に比べるとかなり減り、全米自動車労組に加入する労働者は昨年末で約46万人だ。
小さい数ではないが、1社で140万人の従業員を抱える米小売り最大手のウォルマート・ストアーズのおよそ3分の1である。雇用という観点からも、自動車産業を特別扱いする根拠は薄弱になっている。
ビッグスリーが本拠を置くミシガン州など米中西部は、共和党と民主党の勢力が伯仲する州が多い。11月の大統領選でもカギを握る可能性がある。こうした政治情勢が、ブッシュ政権や自らの再選のかかる議会選を目前に控えた米議員の判断に影響したとすれば、残念なことだ。
米国の自動車市場の冷え込みは厳しい。ガソリン高と実体経済の悪化がダブルパンチとなり、9月の新車販売は前年同月比26%減になった。「勝ち組」とされたトヨタやホンダ車の売れ行きも低迷している。
財務基盤の弱いビッグスリーが政府に泣きつきたくなる気持ちは分かるが、公的支援で当面の危機を乗り切ったとしても、それで本当に再生できるのか。自ら招いた危機を自らの才覚で克服するのが、経営不振企業の真の復活への第一歩だろう。