週明けに08年度補正予算案の審議が始まる予定だ。景気対策最優先を掲げる麻生太郎首相の意向に基づいている。麻生首相は8月末に決定した緊急総合経済対策実施に加えて、追加対策にも意欲を示している。
日本経済は昨年末前後に後退期入りしたとみられる。日本銀行の「短期経済観測調査」(9月実施)では、大企業・製造業の業況判断が5年3カ月ぶりに「良い」を「悪い」が上回った。8月の鉱工業生産指数も前月比3・5%の大幅下落となった。物価上昇を考慮した実質消費支出も8月は前年同月比3%減だった。
夏以降深刻化した米国の金融危機の影響はこれからより鮮明になる。政府は景気が過度に落ち込まないよう、適切な施策を打っていく必要がある。この点からも、国会で補正予算案の審議のみならず、景気論議をすることは当然である。民主党など野党も、政府・与党案の批判のみならず、より効果的な対案を示すことで、議論は生産的になる。
経済問題は総選挙でも最大の争点となる。論点をはっきりさせておくことは、有権者にも有益だ。
では、いま、何をなすべきなのか。
米国発の世界恐慌を阻止するため、協調行動をとることは不可欠だ。まず、米国があらゆる手を打つことが第一だ。その上で、G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)や国際通貨基金などの国際協調の枠組みに基づき、最大限の協力をしていくことになる。
ただ、景気対策となると日本経済の現状に即して、効果が期待できる施策を、遅れることなく、適切にやらなければならない。
政府・与党の政策では相変わらず、企業側を強くすることに力点が置かれている。供給側をてこ入れすれば、家計はいずれ元気になるという発想だ。
それでいいのか。
バブル崩壊以降、企業は設備、負債、雇用の過剰解消に向け、大規模なリストラを行った。賃金は抑えられ、雇用の非正規化も進んだ。その結果、企業収益は急回復した。最近でも大企業・製造業の売上高経常利益率はバブル経済期に匹敵する。大企業は、まだもうかっているのだ。
言い換えれば、賃上げ余力や中小企業や下請けへの利益還元余力はあるのだ。勤労者の所得が増えなければ政府が目指している新価格体系への移行も円滑には進まない。日銀の生活意識調査でも、消費者心理が悪化していることは明らかになっている。
勤労者の収入増は家計消費増加をもたらし、企業自身も潤す。非正規雇用の正規化や雇用機会の拡大も所得拡大を通じて、景気を盛り上げる効果を持つ。
政府・与党は家計の元気付けが、最も有効だと知るべきだ。この観点から緊急対策を組み直すことが最も時宜にかなっている。
毎日新聞 2008年10月3日 東京朝刊