知日派の英国人ジャーナリストとして知られる。バブル絶頂期に日本経済の衰退を予測した「日はまた沈む」(89年)、長期低迷からの復活を宣言した「日はまた昇る」(06年)などの著書や記事を通し、日本の社会構造を鋭く分析してきた。国内政治や世界経済の先行きが混とんとする中、今の日本がやるべきことは? 来日したエモット氏に聞いた。<編集委員・福本容子>
Q 「日」(=日本経済)はその後、どうなったのでしょう?
A 今は雲に覆われていて暗い。米国の動向によるが、日本経済は今後1年の間にリセッション(景気後退)かそれに近いものを経験するだろう。ただ、成長の潜在力は、「日はまた昇る」を書いた当時と変わらない。雲を取り除くには、手詰まり状態の政治をまず打開する必要がある。
Q 早期の解散・総選挙が必要だと?
A それが日本のためだ。与党、民主党のいずれが勝利しても、何らかの再編が起きて法案を通しやすい政治構図が生まれるだろう。改革路線も復活するのではないか。
Q 自民、民主、どちらの政権が望ましい?
A 小沢民主党だ。小沢一郎氏の考えを支持するからではなく政権交代が日本のためになると思うからだ。民主党に、責任を果たせる政党だということを国民に示すチャンスを与えることだ。それなしで、これまでの短命政権、スキャンダル、脆弱(ぜいじゃく)な政府、政治の機能停止、という循環を断つことはできない。
Q 小泉純一郎元首相が引退します。小泉改革を今どう評価しますか。
A 格差拡大を招いたと批判されても仕方がない面があるのは確かだが、小泉改革に欠陥があったからといって、規制緩和、市場自由化をやめてはならない。
Q 米国発金融危機の中、日本勢が再び金融の国際舞台に登場しようとしています。
A 日本企業には足場を築く好機が訪れたが、小規模な買収にとどまっている。特に三菱UFJフィナンシャル・グループはモルガン・スタンレーを丸ごと手に入れたわけではない。次のステップにつなげることなく単に2割の出資に終わってしまえば、間違いをしたことになろう。
Q 日本企業がこの好機をモノにするには何が重要になりますか。
A 一般論だが、日本企業は時間をかけて徐々に成長することを得意とする一方、M&A(企業の合併・買収)を使って急拡大するのがうまくない。高すぎる値段で買収したり、買収後、うまく自社と融合させられないという問題があった。米金融機関とのカルチャーの違いにどう対処するのか、獲得した資産をいかに有効利用できるか、にかかっている。(随時掲載)
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■人物略歴
オックスフォード大卒。80年、英週刊誌「エコノミスト」入社、東京支局長(83~86年)を経て93年、同誌編集長。06年に独立、著作・講演で世界を飛び回っている。近著に「アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略」(日本経済新聞出版社)。52歳。
毎日新聞 2008年10月3日 東京朝刊