衆院の解散・総選挙の足音が高まる中、国会は麻生太郎首相の所信表明演説を受けて、各党の代表質問が始まった。初日は与党への対決姿勢を強める民主党の小沢一郎代表の質問に注目が集まった。
麻生首相の所信表明演説は、解散・総選挙を強く意識した異例の内容だった。民主党に対し、これまでの国会対応から外交に至るまで逆質問を連発して挑発した。
小沢代表がどう反応するか見ものだったが、「首相の質問には、私の所信を述べることで答弁とする」と挑発に乗らなかった。麻生ペースに巻き込まれるのを警戒したからだろう。
その結果、代表質問とは名ばかりで、まさに小沢代表の「所信表明演説」のような発言が目立った。こちらも異例の措置といえよう。こうしたやりとりの善しあしは別にして、政権をかけた二大政党政治の本格的な到来を印象づけた。
小沢代表は終始、民主党の政権担当能力をアピールした。次期衆院選に向けたマニフェスト(政権公約)の概要も示した。「五つの約束」と名付け、子ども手当の創設や高速道路無料化、最低保障年金制度の導入などに向け、実施時期と必要な財源規模を明言した。
最大の焦点は財源である。小沢代表は官僚による統治機構を根本的に変え、政治主導による予算の総組み替え、「埋蔵金」の活用、特別会計と独立行政法人の原則廃止などを提示した。その上で二〇〇九年度は八兆四千億円、一〇―一一年度には各十四兆円など年度ごとに生み出す経費を明らかにし、四年目に国民の審判を受けるとした。
民主党に求められていたのは、理解しやすい政策、財源の裏付け、工程表だ。財源確保の具体的な道筋は明確ではないが、ようやく議論のたたき台となる公約を打ち出したと評価してよいのではないか。
小沢代表は自分の所信に対する考えを麻生首相に求めたが、こちらも正面から答えなかった。議論がかみ合わなかったのは残念としか言いようがない。
今後、代表質問や委員会審議、党首討論などを通じて論議を深める必要がある。ただ、解散の時期は、米国発の金融危機で不透明感が増している。
与野党ともそれぞれ有利な状況で選挙に臨みたいのは理解できるが、政治的な駆け引きに偏重すれば、国民の政治不信はさらに高まろう。麻生首相はそのことを忘れず、論議が煮詰まった段階で堂々と解散に踏み切ってもらいたい。
大阪・難波の繁華街にある雑居ビルの個室ビデオ店で一日未明に火災が発生、十五人が死亡する痛ましい惨事となった。
大阪府警は殺人と放火容疑などで、火元とみられる個室を利用していた四十六歳の無職男を逮捕した。男は「生きていくのが嫌になり、火を付けた」と供述しているという。理不尽かつ卑劣な犯行で、断じて許すことはできない。
悲劇の舞台となったのは、またも繁華街の雑居ビルだった。ビデオ店の個室は二―三平方メートルの広さで、隣室とは木製の仕切り板で隔てられていた。廊下は狭く、いったん火災が起きれば短時間で炎や煙が充満しやすい構造だ。個室から室外の状況は分かりにくく、寝入っていれば死者が出るリスクは高い。
煙感知器や火災報知機の設置状況はどうだったのか、うまく機能していたのか。また、避難経路に問題はなかったのか、十分な検証が必要だ。
火災が起きたのと同じタイプの店舗は、大都市を中心に増加傾向にある。低料金で一晩過ごせるとあって、ホテル代わりに利用する客も多いという。類似店舗の防火設備の点検を急がねばなるまい。
二〇〇一年九月、死者四十四人を出した東京・歌舞伎町の雑居ビル火災を受け、翌年十月、改正消防法が施行された。事前通告なしに消防が立ち入り検査できるようになったほか、防火対策を怠った場合の罰金が最高一億円に引き上げられた。
しかし、その後も火災は相次いでいる。歌舞伎町ビル火災では、ビルの所有者らに防火責任を厳しく問う判決が下された。悲劇を繰り返さないためにも、防火意識の徹底が必要だ。いかに不測の事態が起ころうと、初期消火で被害を最小限に食い止める安全確保策が求められる。
(2008年10月2日掲載)