「一斉に弁護士会に対して懲戒請求をかけてもらいたいんですよ」--。2日の広島地裁判決は、思い切った言動が身上の橋下徹弁護士(現・大阪府知事)がテレビ番組内で行った発言を「弁護士の使命・職責を正解しない失当なもの」と断じた。府知事に就任後も、さまざまな発言が物議を醸し、世論の関心を集める手法を用いてきた橋下氏だが、厳しい判決に「重く受け止める」と神妙な表情をみせた。
判決を受け、府庁で報道陣の取材に応じた橋下氏は冒頭、「地裁の判断は重く受け止める。表現の自由の範囲を逸脱していた」と神妙な面持ちで頭を下げ謝罪した。一方で、控訴の意向も表明。「3審制なので高裁の判断も伺いたい。1審の判断が不当だとかではない」と理由を説明した。
「今後の表現手法に影響するか」と問われ、「今回の訴訟ではある意味、個人を攻撃した。政治家として扱っているのは大きな組織や社会制度。知事としての職務には影響しない」と話した。
刺激的な表現は知事になってからも物議を醸しているが、最近は政治的メッセージを伝える手法と認識されている。9月には、全国学力テストの公表に消極的な教育委員会に対し、ラジオの生放送で「くそ教育委員会」と言い放った。府議会で批判され、「二度と言わない」と答弁したが謝罪はしていない。
一方、判決後、広島弁護士会館(広島市)で開かれた会見で原告側弁護団は、「品性に劣る行動だった。あれが許されればなんでも許される」などと橋下氏への憤りを口にした。弁護団団長の島方時夫弁護士は「橋下弁護士は、光市母子殺害事件弁護団に対して謝罪すべきだ」と話した。【石川隆宣】
広島地裁判決について、作家の高村薫さんは「痛快な判決だ。『ともかく懲戒請求すればよい』という橋下氏の論法はむちゃくちゃで、その不当性を裁判所は明快に示してくれた」と評価。一方、情報の受け手側に対しては「私たち一人一人が少しでも法律の感覚を持っていれば、このような懲戒請求がおかしいことは分かる。来年5月から裁判員制度が始まるが、参加する市民の側に弁護士活動への最低限の理解がなければ、信頼できる制度にならない」と指摘した。
田島泰彦・上智大文学部教授(メディア法)は「マスメディアは橋下弁護士に乗せられたことに、深刻な自己批判をしなければいけない。第三者の目で物事を冷静に伝え、正当な批判・検証をするのがメディアの役割。一方の意見に利用されることは絶対にあってはならない」と指摘。橋下氏の発言については「表現の自由の範囲を超えている。数にものをいわせ、魔女狩りのような状況を作り出した。正当な活動をしている弁護士を萎縮(いしゅく)させ、自由な議論を妨げることにつながる」と批判した。
毎日新聞 2008年10月2日 12時04分(最終更新 10月2日 14時29分)