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救急搬送、安心感増す ―豊島大橋開通へ― '08/10/2

 ▽地元医師重視変わらず

 「だいぶ調子が良くなったようじゃね」。呉市豊町の岡本医院の荒光義美医師(75)が患者に話し掛ける。内科、小児科の看板を掲げるが「何でもやる」のが島の医師の条件の一つ。外傷患者が駆け込めば足も縫う。「私自身も後期高齢者だが休むわけにはいかん」と踏ん張る。

 足は痛むが毎週火、金曜日は往診し、歩けない高齢者の自宅や福祉施設を回る。「病気を治すだけじゃなく相手の日常生活に入っていくのも大切な仕事」と実感するからだ。

 肺を患う夫を自宅で診てもらった多武保碩子さん(78)は「時間をかけて何でも聞いてもらえて安心できる。先生も大変だけれど続けてほしい」と願う。

 天候に左右されず

 ただ、島の医院は設備が乏しく、手術が必要な病気やけがには対応できない。救急患者は紹介状を書いて本土の病院に送るため、荒光医師は「一番の仕事は本土の大病院とのパイプ役」と言う。

 豊、豊浜両町の二〇〇六年の救急搬送は三百四十件で島外が八割以上を占めた。これまでは島にある市消防局の救急艇二隻が、仁方や川尻町などの本土や既に橋で地続きの蒲刈町へ運び、救急車に引き継いで総合病院へ患者を運んできた。

 架橋後は陸路を使い救急車での搬送になり、強風や濃霧のときも患者を運べる。市消防局は「乗り換えがない分、患者への負担も減る。波に揺られる心配もない」と説明。島外から応援の救急車も行き来でき、島民の安心感は増すとみる。

 陸路で本土へ向かう途中には公立下蒲刈病院(下蒲刈町)がある。安芸灘四島で唯一の県の救急指定病院だが、過疎化や診療報酬の減少で赤字経営が続く。市は有料の安芸灘大橋を渡らずに済むため、利用が増えると予測。特に退院後のリハビリでの利用に期待を寄せ、案内板の設置などを検討している。

 設備より信頼関係

 架橋で島民は設備の充実した病院へ移るのか―。「うちの医院へ来る患者さんの数は変わらないだろう」と話すのは豊浜町の伊藤克浩医師(47)。「島の人は医者に対する思い入れがとても強い。設備よりも信頼関係を重んじる」とみる。

 往診を受ける町内の中西おとよさん(94)の部屋には、伊藤医師の似顔絵が飾ってある。娘の映美さん(67)が教えてくれた。「母は島を離れたがらないし、先生が好きなんです。最期は先生の手で―と言っています」

 医療面の選択の幅は架橋によって広がる。しかし、島には「島民の思いをくむ医療」が根づいてきた。「地域の事情に沿った医療の在り方が、架橋を契機に問われている」。荒光医師の言葉は重い。(新山創)

【写真説明】福祉施設への往診で入所者を診る荒光医師(左)。島民の地元医師への信頼は厚い




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