医療改革テーマにフォーラム―構想日本
民間の非営利シンクタンク「構想日本」(加藤秀樹代表)は9月30日、「医療改革」をテーマに東京都内でフォーラムを開いた。6人の医師とNPO関係者らがそれぞれの立場から医療現場の現状と改革の必要性を訴えた。
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山形大医学部の嘉山孝正部長は、外資系コンサルタント企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーの就職説明会に「東大医学部の学生が23人も訪れていた」ことも取り上げた。フォーラムにはマッキンゼーに入社した国立大医学部卒の元医師も来場していた。元医師は医学部を卒業して2年間の研修を終えた後、医療現場を離れたという。嘉山部長らに「なぜ医師を辞めてマッキンゼーで働こうと思ったのか」と尋ねられ、元医師は「研修を終えて、医療現場は明らかにおかしいと感じた」と率直な感想を述べた。これに対し、東京医科歯科大大学院の川渕孝一教授が「多くの国税を使って医師になれたのに、良心の呵責(かしゃく)は覚えないのか」と質問。元医師は「(マッキンゼーは)最初から3年だけと決めていたので、来年4月には退職して医療現場に戻る予定だ」とした。
また、嘉山部長は、臨床現場でろくに仕事もせずに高収入を得ている医師がメディアに頻繁に登場しているとして、「『美人整形外科医』などと持ち上げられて、命に関係ない仕事で金ばかり稼いでいる」と痛烈に批判した。同時に、「楽で高収入を得られる仕事ばかりを評価する」一部メディアの姿勢と、「(それを受け入れる)国民性と価値観」にも疑問を投げ掛けた。
医療現場の疲弊と医師不足問題も論じられた。北里大医学部の海野信也教授は産婦人科医療の崩壊について説明した。海野教授が産婦人科医約160人の「在院時間」のデータを取ったところ、月平均295時間(週70時間以上)にも上ったという。「分娩できる医療機関は、毎年100以上減っている。分娩施設が減ると、残った施設に分娩が集中し、診療の質は低下。余裕がなくなって産婦人科医から撤退、という悪循環になっている。わたしも同じように週70時間以上働き、月10回の当直をこなしていた。現在、若い医師にも同じことをやらせている。人手が足りないので、そうしないと現場が回らない状況だが、そういった積み重ねが産婦人科医を減らしたのかもしれない」と述べた。
川渕教授は、「10年前と比べて分娩数は8%減っているが、分娩できる施設は32%減っているというデータを見たり、産婦人科医の2割が70歳以上と聞いたりして驚いた」と話した。
埼玉県済生会栗橋病院の本田宏副院長は、「医療には限界と一定の割合で不確実性がある。全力を尽くしても、治療の途中でお亡くなりになる方もいる。最近ではそういったケースも医療事故を疑われることもあるし、訴えられる危険性もある」と語った。また、絶対的な医師数の不足により、一人で何役もこなさなければならない状況についても言及。「本来なら専門医がやるべき抗がん剤治療、救急治療、緩和ケアをわたしがやっている。患者は当然のように専門医がやってくれていると思っているが、実態はそうではない」と述べた。
大阪府立母子保健総合医療センターの森臨太郎企画調査室長は、新生児科で1か月間病院に住み込んで、通常の診療と並行して3時間置きにNICUで新生児の血液検査をした経験を話した。「意識がもうろうとしていた。医師の間ではこの手の話は武勇伝として語られるが、治療を受ける患者側から見たらどうだろうか。そんな状態の医師に診てもらいたいだろうか」と、長時間労働に疑問を投げ掛けた。
医師不足を一時的に解消する案も幾つか挙がった。川渕教授は、「余っているといわれている歯科医に研修を受けてもらって、麻酔医として活用するのはどうか」と提案。これに対し、嘉山部長は「全身管理は麻酔のプロでなければ難しい。しかし、チーム医療の一員としては戦力になるかもしれない」と述べた。
嘉山部長は、「医学部生の5年時での国家試験受験」を提案。「4年時に一度臨床をやって、また卒業して2年やるのは時間の無駄。5年で国家試験を受けさせて臨床研修の期間を短縮すれば、それだけで一気に16000人増える」と説明した。
医師不足を解消する手段として、治療だけでなく予防に焦点を当てた話題も出た。森室長は英国が2003年に始めた「家庭医制度」を紹介。各地域にプライマリーケアを担当する家庭医を配置して、地域住民の健康度がアップすると、医師にインセンティブが付くシステムだという。森室長は「これだけで医療崩壊を防ぐことはできないが、防ぐための一つのパズルにはなり得る」と話した。
更新:2008/10/01 23:14 キャリアブレイン
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