自民、公明両党が一転して10月3日解散を見送り、2日から補正予算案の審議入りを決めたのは、景気対策を最優先に掲げる麻生太郎首相が「野党の追及を恐れて首相が務まるか」と頑として法案成立にこだわったからだ。加えて世界的な株価暴落で与党内に「何もやらずに解散すれば与党に批判が集中しかねない」(党中堅)との恐怖心が広がったことも首相に追い風となった。
「ずっと申し上げてきたが、少なくとも緊急経済対策に関する補正予算案はぜひ上げたい。解散前にテロ特措法延長など、いま抱えている問題を仕上げるのは当然のことだ」
30日夕、記者団の質問に応じた首相は補正予算成立に意欲をみなぎらせた。
29日までは自公両党幹部はそろい踏みで衆院予算委開催に難色を示し、10月3日解散に向け、外堀を埋めつつあった。中山成彬前国土交通相の失言・辞任もあり、「解散を見据えて野党が首相に集中砲火を浴びせ、火だるまになったまま解散に追い込まれる可能性が高い」(党幹部)と考えたからだ。
だが、首相は頑固だった。自民党の大島理森国対委員長や公明党の北側一雄幹事長が再三にわたり説得を続けたが、首相は「予算委員会は政府・与党の主張を正々堂々と訴えるチャンスじゃないか。野党が怖いから審議しないという考えにはくみしない」と補正予算審議を回避しての解散を断固拒否した。解散の大義を失い、「敵前逃亡」「卑怯(ひきよう)」と後ろ指を指されることは首相のプライドが許さなかったようだ。
根負けした大島氏は30日朝、国会内で公明党の漆原良夫国対委員長に「首相はぜひ補正予算案をやりたいと言っている。なんとか了承願いたい」と頭を下げた。漆原氏は「補正に入って出口(成立のめど)は担保されるのか。ズルズルとブラックホールに入りかねない」と食い下がったが、最終的に押し切られた。
30日の世界的な株価暴落も首相に有利に働いた。「このまま解散したら政府・与党は『責任放棄』と非難される」との声が与党内で一気に強まったからだ。加えて自民党が極秘で実施した世論調査で、現状で解散しても自公両党で過半数がやっとの微妙な情勢だということが判明、早期解散論にブレーキをかけた。
一方、自民党内では解散の大幅先送りを求める声も強まりつつある。30日の党総務会では、津島雄二元厚相が「世界経済が危機的状況になったときに即座に解散というのはいかがか」と発言。加藤紘一元幹事長も「こんな時期に権力の空白を生んでよいのか。衆院選を当面やらないというメッセージを発するべきだ」と述べた。笹川堯総務会長も総務会後の記者会見で「個人的にはそう思う」と津島氏らに同調した。
だが、補正予算案を審議入りしても与党が勝算を弾けるのは衆院通過まで。野党が主導権を握る参院では審議の先行きはまったく見えない。ある自民党幹部は「衆院通過後は出たとこ勝負だ。首相の発信力と勝負運にかけるしかない」と打ち明けた。
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