大阪市浪速区の個室ビデオ店で15人が死亡、10人が重軽傷を負った火災で、大阪府警浪速署捜査本部は1日、客の東大阪市加納7、無職、小川和弘容疑者(46)を殺人と殺人未遂、現住建造物等放火の疑いで逮捕した。「生きていくのが嫌になった。ライターでカバンなどに火をつけた」と容疑を認めており、捜査本部は突発的に火をつけたとみて調べている。
また、捜査本部は同店の防火設備に不備があった可能性があるとみて、消防法違反の疑いでも捜査を進める。
調べでは、小川容疑者は1日午前2時55分ごろ、同区難波中3の雑居ビル1階のビデオDVD試写室「キャッツなんば店」の個室内で、ティッシュペーパーや持ち込んだバッグ内の新聞紙などにライターで火をつけ、男性客15人を殺害、同ビル1階部分約40平方メートルを燃やすなどした疑い。
店内にいた客が、小川容疑者が出てきた個室から焦げ臭いにおいがしたため、室内を見ると、バッグから炎が上がっていたらしい。通報で駆け付けた警察官が店外の路上で、白い肌着にトランクス姿の小川容疑者を発見。「けがはないか」と尋ねたところ、「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返し、「たばこに火をつけたらたくさん煙が出ました。死にかかったんですわ」などと震えた声で話し、失火をほのめかしたという。しかし、その後の捜査本部の調べに、故意を認め、「火をつけたら死者が出ると分かっていた」「煙が充満し、怖くなって逃げた」と供述した。
店には午前1時半ごろ、友人に連れられて来たといい、友人とみられる男性は火災で負傷し、入院した。
捜査本部は死亡者の身元確認を急いでいるが、4人にとどまっている。「免許証などを持っていたのは数人。身元確認には時間を要する」としている。
重軽傷者は32~77歳で、1人が重体、2人が重傷となっている。
大阪市消防局は1日、犠牲になった15人の客が見つかった場所と、無事だった他の客が居たとみられる部屋など、出火当時の詳細な現場の状況を明らかにした。それによると、犠牲者は個室が並ぶスペースの奥の部屋に集中。逃げ出す途中に廊下奥の“袋小路”に迷い込み、息絶えたとみられる人もいた。特殊な店舗構造が招いた惨事。出火当時の店内の状況を検証した。
逮捕された小川容疑者が居た部屋は、細い廊下が折れ曲がり、さらに奥につながる入り口部分にある。
小川容疑者の部屋の奥には14室あるが、小川容疑者の部屋周辺が炎や煙で覆われると、その奥からは逃げることができない構造だ。今回の火災では15人が犠牲になったが、12人が小川容疑者の部屋より奥で見つかった。部屋の中で犠牲になったとみられるのは、うち9人。いずれも仮眠中に被害に遭ったとみられる。残りの3人は廊下で見つかった。逃げる途中だったが、1人は廊下の突き当たりで見つかっており、暗闇の中、行き場を失ったようだ。
一方、消防に救出されたり、自力で脱出した客のうち、出火当時の場所が確認されたのは小川容疑者を除き6人。全員が小川容疑者より手前の部屋や廊下に居た。自力で脱出した客は、部屋に入ってくる煙などに気付き、慌てて逃げた。火災で廊下は真っ暗になっていたが、客は「壁を伝った」「はいつくばって逃げた」などと証言。これらの部屋から出口までは1本の廊下しかなく、暗闇でも何とか逃げ出すことが可能だったとみられる。
だが、これらの客の知らせを受けて救助しようとしても、もう奥に進める状況ではなかった。
大阪市の雑居ビル火災を受け国土交通省は1日、個室ビデオや漫画喫茶などの建物に対する緊急点検を全国都道府県に指示した。建築基準法に基づき、廊下幅、排煙設備などが適切に配置されているかを立ち入り検査するように求めている。
一方、総務省消防庁も全国の同様の店舗の、防火設備や管理体制が消防法令に違反していないかなど実態調査に乗り出す方針だ。
毎日新聞 2008年10月2日 東京朝刊