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困った会社見本市

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人が辞めていく会社は、社長が社員とまともに会話してない件

2008 / 10 / 2

 私の実家の事業の提携先で、やたら担当社員が代わる会社がある。それも1年や2年ではなく、3カ月単位で引き継ぎをしなければならないような、抜群の離職率を誇る。
 これではまるで流しそうめんだ。定着しないにも程があると思う。別に会社に利益が出ておらず賃金未払いとかの理由ではなく、むしろ給料は高いほうで、経営幹部もそれなりの粒ぞろいに見える。

 そこの退職者が、たまたま私の投資先に再就職したので話を聞いてみると、ワンマン社長が愛人を取締役に据えて会社の金でマンションを買い与え、連日出社は午後、みたいな経営だったようだ。
 社長と話をして判断を仰ぎたくても会社にいない、仕方なく社内で議論してまとめるとちゃぶ台を返すという典型的な俺様経営者、とのことで、離職率の高さにも納得した。

 こうした社長は、社員を信頼しておらず、業務についても社員と話を全然していない。確かに、それでは人はついていかないだろうし、太鼓持ちや提灯持ちのような宮仕えのエキスパートしか組織に残らないだろう。

 ただ、経営者が社員と話さなくなるのも理由はある。経営者は孤独な職業であって、普通の善良な市民がそのまま人の上に立ち、組織の采配を振るうことはできない。資金繰りや幹部の裏切りに平然と耐える精神的な強さと、常に損得勘定でプラスに持っていくようなそろばん使いのうまさが、円熟した人格よりも必要とされる。石にかじりついても会社をつぶさないことがまず最優先で、情や理想は二の次だ。
 銀行から金を借りるために駆けずり回り、税金を減らすためになくした領収書を探す。それが経営者というものである。こうした経営者の苦労は従業員には決して話せない。

 それでも会社が小さく苦しいうちは、経営者は部下と話すべきことは話して、苦難を分かち合って成長させていく。ヤバいのは、ひとたび成功すると、すべて自分の能力のおかげと勘違いして、部下との最低限の会話もサボり出すことだ。

 特に、黙って座っていても利益が出るようになると、その人が本来持つ「人間としての弱さ」が露呈しがちになる。幼少期のコンプレックスだったり、性格的なクセだったり、とにかく気をつけていないと、良いときほど、本性が出るのである。それが、経営者というか人間本来の「器」なのだろうと思う。
 成功に浮かれて遊びほうけ、部下とろくに話をしなくなると、小さい器に注ぎ過ぎた酒があふれるように、社員は話を聞いてくれない社長を見限って去っていく。

 社員が辞めずに頑張って働く会社を作る秘訣は、社員の話をとにかく黙って経営者が聞くこと、これに尽きる。社員の不満や理不尽な要求を聞くと、腹の立つこともあるだろうが、我慢して聞き続けることは何よりも組織保全のために大事なのだ。それができない経営者は攻めには強いが、何事かあると組織が崩壊してしまう。

「そういえば、最近社員がよく辞める」と思ったら、毎朝誰彼構わず「最近どうだ」ぐらいの声は掛けたほうがいい。これだけで、随分、雰囲気が良い方向に変わるから。

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プロフィール

山本 一郎 やまもと いちろう

イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。父親が抱えた負債を返済するため学生時代から株の個人投資を始め、ゲーム制作や投資事業などを手掛ける会社を起業。ブログなどで経済・時事問題に関する批評を展開し、インターネットでは「切込隊長」と呼ばれるカリスマ的存在。著書に『ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々』(扶桑社)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など。


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