千葉県酒々井町で東京の不動産会社が農業生産法人を作り、宅地造成用に農地を買い集めていたことが分かった。農地は農地法で農家と農業生産法人しか所有できないため、法人をダミーとして利用した形。造成計画の頓挫で、買い集められた農地の多くは耕作放棄地となった。同町農業委員会は法人の設立や農地購入を許可しており、農業委のチェックが形骸(けいがい)化している実態も浮かんだ。【井上英介、奥山智己】
不動産会社「昭苑都市開発」(東京都港区、97年経営破綻(はたん))が77年に設立した農業生産法人「昭苑ファーム」。登記簿によると、ファームは清算中だが、今も水田1.3ヘクタールと畑0.2ヘクタールを所有している。
昭苑都市開発は、JR成田線酒々井駅そばの上郷地区で63ヘクタールの宅地造成を計画した。80年代から計9ヘクタールの農地を買収、農業の担い手以外は農地を所有できないため、所有権移転の仮登記をつけた。ファームも並行して買収を進め、町農業委の許可を得て所有権を登記。しかし、開発計画は造成前に頓挫した。
ファームの運営を担った昭苑都市開発の元社員によると、当初は観葉植物などを栽培する目的で設立された。しかし「途中で内実を失い、やがて土地集めの道具となった」。別の元社員は「仮登記では相続による地権者の分散など不都合が生じる。農業生産法人なら所有権を登記できるので有利だった」とメリットを説明する。
ファームの農地購入を許可したことについて、同町農業委は「農地法に基づく許可申請を受け、書類などに不備がなかった」と説明。内実を失っていたことについては「日常的なチェックは農地パトロールなどで行うが、この件での具体的な記録は残っていない」としている。
昭苑都市開発の破綻後、買収した農地計10.5ヘクタールは新潟中央銀行系列の不動産企業に転売された。しかし、同行と関連企業も99年破綻。千葉県柏市の不動産会社に転売され、仮登記がついているが、開発の予定はない。
上郷地区では良質のコシヒカリが取れ、ブランド化を目指す動きがあった。地区の水田25ヘクタールのうち仮登記分が3割を占め、その多くが荒れている。
毎日新聞 2008年9月24日 2時30分(最終更新 9月24日 2時30分)