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米国ゴルフツアー “たった一言”ストーリー

前進のための失敗 ―― ティム・フィンチェム米PGAツアー会長

We'll consider everything.(何だって見直すよ)

 さらに言えば、プレーオフ第1、2戦を連覇したビジェイ・シンが最終戦のツアー選手権の結果を待たずしてフェデックスカップチャンピオンの座に輝くことが確定してしまい、ドキドキ感を醸成するための仕掛けは台無しになってしまった。

 そこで爆発した米メディアや関係者からの「おかしい!」に対しても、フィンチェム会長は潔く「その通り(おかしい)。来年のプレーオフまでに見直しを図る」。

 そんなフィンチェム会長の姿勢をどう評価するか。どこまでも会長を批判する人々は「そんなに簡単に失敗を認め、すぐに『見直す』なんて言うってことは、元々、きちんと準備ができていない曖昧な状態のうちに今年のプレーオフを実施したってことなんじゃないの?」と攻撃している。

 そうした反論を耳にして、すぐさま思い出されるのは、先ごろ、外国人選手に対する英語テスト実施案を発表してすぐさま撤回した米LPGAのキャロリン・ビーベンス会長のこと。アジア人選手に対する差別だと大批判を浴び、撤回したらしたで再び批判を浴びたビーベンス会長のケースとプレーオフシステムの失敗で批判されたフィンチェム会長のケースには、大きな共通点がある。

ティム・フィンチェム米PGAツアー会長

(写真:田辺 安啓)

 フィンチェム会長は「私はツアーを進歩させたい」と言った。ビーベンス会長は「私はツアーを世界一にしたい」と言った。どちらもツアーの前進を切望しているからこそ、新しいことを考案し、実施した。やってみて、どうもうまくないことがわかったら、「さらなる改良を加えます」と、潔く非を認めた。

 失敗を恐れて何もしなかったら、批判もされずに済むが、何も変わらない。それで現状維持が永遠にできればいいが、未来に待ち受けているのは、おそらくは後退だろう。

 それより、たとえ失敗し、批判を浴びることになっても、とりあえずでも何かを始めたほうが前進できる。米PGAツアーのプレーオフにも、米LPGAの英語テストにも、もちろん問題はある。しかし、少なくとも彼らの姿勢を「勇気ある行動だ」と評価してあげていいのではないだろうか。

 サブプライム問題に続くリーマンショックで米経済は大揺れだ。プロゴルフ界だって、その煽りは受けるはず。厳しい状況下で今後もツアーを維持していくためには、失敗や批判を恐れない強さと勇気が求められる。そう考えたとき、批判の渦の中にいるフィンチェム会長とビーベンス会長は、きわめて立派なリーダーだと私は思う。

(舩越 園子=在米ゴルフジャーナリスト)

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このコラムについて

米国ゴルフツアー “たった一言”ストーリー

米国のプロゴルフ界を取材しながら常々感じていることがある。それは、大物選手ほど簡単な言葉で奥深い話をするということだ。奥深いと言っても、哲学めいた小難しい話をするわけではない。選手が口にした一言に、その選手のバックグラウンドや素顔を重ね合わせて咀嚼すると、なるほどと頷ける何かが浮かび上がる。その「何か」は我々の人生にもあてはまり、ときには「目からウロコ」のような効果さえ発揮してくれる。そんなとき、その一言に感激し、その選手の大物ぶりにあらためて脱帽させられるのだ。

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著者プロフィール

舩越 園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト。早稲田大学政経学部卒業後、広告代理店勤務を経て、独立。1993年渡米。ニューヨークを拠点に米国のゴルフ界を取材し続け、日本の新聞・雑誌等へ幅広く執筆中。

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