大阪・難波の雑居ビルの個室ビデオ店放火事件は、十五人が死亡する惨事となった。東京・新宿で起きた七年前の火災の教訓が生きていたなら、これほどの犠牲者を出さずにすんだのではないか。
個室内で火を付けたとして、放火と殺人などの疑いで逮捕された無職男(46)は「生きていくのが嫌になった」などと動機を話しているという。
何の落ち度もないにもかかわらず身勝手な犯罪に巻き込まれた犠牲者と遺族には慰めの言葉もない。
店内には三十二の個室があり、発生当時の午前三時ごろでも二十六人が使用中だった。一晩いられるナイトコースは千五百円。終電に遅れたサラリーマンや、ネットカフェ、カプセルホテルなど宿泊場所を転々とする人々に、よく使われていたという。
十五人は寝込んで気づくのが遅れたらしい。多くはわずか二畳ほどの個室の中で亡くなっていた。
燃えたのは、二百二十平方メートルの店舗のうち三十七平方メートルにすぎない。人がやっとすれ違える狭い通路を伝って黒煙が流れて通路両脇の個室に充満し、客を襲った。雑居ビルに多い店舗特有の密室構造が、犠牲者を多くした。
四十四人の死者を出した東京・新宿の歌舞伎町で二〇〇一年九月に起きた雑居ビル火災を機に、テナントが頻繁に代わり店内の実態がつかみにくい雑居ビルの防火対策の徹底を図ったはずなのに、再び起きたことが残念でならない。
この火災も何者かの放火が原因とみられている。東京地裁は今年七月、業務上過失致死傷罪などに問われたビルの実質的オーナーら五人に「利潤追求のあまり防火防災意識が極めて希薄だった」と有罪判決を言い渡した。出火原因が何であれ、防火対策を怠った関係者らの責任を厳しく指摘した。
今回の事件で、店側やビル所有者の防火対策の問題点は今後の捜査を待たねばならない。難を逃れた客の話によると、店員の誘導はなく、廊下には段ボールが積まれていたという。
あの惨事の教訓が風化していたのではないか。東京や名古屋などの繁華街に集中する雑居ビルの防火対策の再点検も急務だ。
この店のようにビデオ鑑賞を看板にしていれば、主たる目的が宿泊ではないとの理由で、ホテルのような旅館業法などの規制はかからない。だが、スプリンクラーなど防火設備の設置といった実態に即した規制、指導が必要だろう。
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