企業の景気実感を知るうえで最も重要な指標の1つとなる日銀の企業短期経済観測調査(短観)が、9月調査で5年ぶりの悪い内容になった。代表的な値となる大企業製造業で景況感が「良い」と回答した企業の割合から「悪い」を引いた業況判断指数はマイナス3と3カ月前の調査に比べて8ポイントも悪化し、2003年6月以来のマイナスに転じた。
大企業の非製造業や中堅・中小企業の業況判断も軒並み悪化した。米国の金融危機が世界経済に急ブレーキをかけ、輸出拡大を頼みの綱とした日本の景気を脅かしている。半月前に起きた米証券リーマン・ブラザーズ破綻などの市場動乱を知る前に回答した企業が7割以上で、現時点の企業心理はもっと冷え込んでいると見るのが自然だろう。
気掛かりなのは製品の供給や設備、雇用の過剰感を訴える企業がじりじり増える傾向がみられることだ。資金繰りの苦しさや金融機関の融資姿勢も厳しくなったとの指摘が中小企業を中心に増えた。
日本経済は昨年秋ごろから景気後退の局面に入った可能性が高いが、従来は落ち込みが比較的浅く、短期間で終わるという見方が支配的だった。バブル崩壊後の「失われた10年」のように深い雇用、設備、債務の過剰を抱えておらず、米住宅バブルの崩壊に伴う日本の金融機関への影響も限定的とみられたためだ。
今回の短観は米金融危機が影を落とし、日本経済の不調も深く長いものになる可能性をより強く示唆している。金融機関の経営不安に伴い、銀行間で資金のやりとりが滞る異常事態も世界のあちこちで起きている。近い将来に金融機関が融資を出し渋る「信用収縮」が世界的に一段と広がる懸念もある。先行きは予断を許さない。
市場動乱による企業心理の悪化が経済に及ぼす影響を政府・日銀は注意深く監視してほしいが、短観結果を安易な財政支出の拡大に頼った景気対策の口実とするのは不適切だ。資源高を背景に中東産油国などに日本の所得が流出しているのが景気足踏みの一因であり、原油高対策などとして特定業種に予算をばらまいても効果は長続きしない。そこは政策当局も政治家も留意すべきだろう。