社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:ビデオ店放火 危険な個室営業を放置するな

 大阪・難波の繁華街にある個室ビデオ店の火災で、多くの利用客が死亡した。客の男が放火などの疑いで逮捕されたが、雑居ビル1階に店がありながら、大きな惨事となったことに強い衝撃を受ける。店側の避難誘導の落ち度はもとより、法規制が営業実態に追いついているのか、徹底した点検が必要だ。

 24時間営業の店は2畳ほどの個室でビデオを観賞できるが、安価なホテル代わりの利用も多い。32の個室があり、終電に遅れたり、台風15号の接近に備え仮眠する人で満室に近い状態だったという。

 人一人がやっと通れるような狭い通路を挟んで個室が並び、従業員の待機場所は少し離れた所にあった。

 個室ビデオ店に限らず、インターネットカフェやカラオケボックスなど個室型店舗が増えている。昨今の厳しい雇用情勢で、「ネットカフェ難民」に象徴されるように、半ば宿泊施設として利用されていることは広く知られている。

 こうした店は防音性や密室性が高い構造で、利用者が就寝中だったり、ビデオ観賞に集中していると、火災などの危険情報が伝わりにくい。煙や熱も滞留しやすい。不特定多数の人々が宿泊する施設として、ふさわしくないことは明らかだ。一般の娯楽施設より厳しい管理体制が求められて当然である。

 44人の死者を出した01年9月の東京の新宿・歌舞伎町雑居ビル火災や、少年3人が死亡した07年1月の兵庫県宝塚市のカラオケ店火災が記憶に新しい。どちらも避難経路の適切な確保などに不備があったとして、防火管理上の責任が厳しく問われた。

 新宿・歌舞伎町の火災後、消防法が改正され、防火管理の徹底、避難・安全基準と罰則の強化などの施策が講じられた。

 しかし、総務省消防庁と国土交通省が宝塚カラオケ店火災の後、全国のカラオケボックス約7000店を調査したところ、約7割が消防関係法令に違反し、約4割が建築基準法令に違反していたという。安全をないがしろにした営業は絶対に許されない。

 今回のビデオ店は昨年5月、大阪市消防局の立ち入り検査を受け、消防法上の重大な違反はなかったという。とはいえ、大勢の人が逃げ遅れたことは、構造上の欠陥があったと考えざるをえない。関係当局は深刻に受け止めるべきだ。

 タクシー代やホテル代を浮かせてこの種の施設に泊まる人は珍しくない。いつ、誰が被害に遭ってもおかしくはない。

 1日に改正消防法施行令が施行され、「個室営業」を行うビルや店舗に自動火災報知設備の設置を義務付けたが、雑居ビルでは従来の想定にない形態の営業が次々と誕生する。問題点を根こそぎ洗い出し、施設の利用実態に即して法の網をかぶせるのが急務だ。

毎日新聞 2008年10月2日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報