「麻生VS小沢」、異例の論戦幕開けである。次期衆院選での政権交代実現を掲げる民主党の小沢一郎代表が、麻生太郎首相の所信表明演説に対する代表質問に立った。
さきの首相演説は、自らの政策を説明する以上に、民主党への質問や批判に力点が置かれた。小沢氏もそれを意識し、首相への質問はほとんどせずに「小沢政権」の説明に時間を割いた。まるでこちらが所信表明演説のようだった。
新政権が船出した国会なのに、首相ではなく野党第1党をめぐる応酬が論戦の主役である。何とも異様な光景だが、政界で政権交代が現実味を帯びて受け止められている反映なのだろう。小沢氏は、政権公約に盛り込む政策実現のスケジュールや必要な財源の規模を語ったが、内容はまだ不十分だ。政策論争を進める「たたき台」と位置づけるべきである。
小沢氏は代表質問で、民主党が公約に掲げる「子ども手当」や、農業者への所得補償などを実施するスケジュールを3段階で示した。(1)09年度に8・4兆円(2)11年度までは14兆円(3)12年度に20・5兆円と必要な財源規模を4年計画で拡大すると説明。特別会計積立金など「埋蔵金」の活用や、独立行政法人の廃止、政府資産の売却などで捻出(ねんしゅつ)する考えを示した。
同党の政権公約のアキレスけんとも目される財源問題の輪郭を示した点は前進だ。ただ、内訳などは依然として明確でない。特に「埋蔵金」は何をどの程度あてこんでいるか不明なうえ、新規政策への充当が好ましくない一時的財源だ。これでは財源の裏打ちができたとは言い難い。
外交・安全保障は日米同盟重視と国連中心主義を「矛盾しない」と説明、国連重視の持論も展開した。では、アフガン支援問題などで日本は現実に何をすべきか。より、具体的な肉づけが必要だ。
一方、首相は小沢氏が補正予算案への対応など自らの「質問」に答えなかった点に不満を表明。小沢氏に「速やかな衆院解散」を促され、「解散は私が決める」と応じた。防御よりも攻撃を優先している首相だが、定額減税など諸施策の規模と財源が明確でない点は、民主党と変わらない。政策の具体像をより明確にしないと、衆院選の本番はとても乗り切れまい。
それにしても、冒頭から民主党への挑発ばかりが目立つ自民党の姿勢は疑問だ。細田博之幹事長は首相への質問で、延々と小沢氏攻撃に時間を割いた。いくら選挙近しとはいえ、今国会での懸案処理を本当に考えているか、疑わしくなる。
米金融危機のあおりで与党には解散先送り論が出るなど、国会の行方はまさに五里霧中だ。かと言って今後の論戦が「気もそぞろ」であってはならない。
毎日新聞 2008年10月2日 東京朝刊