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自らの政権構想を説く民主党の小沢代表。質問に答えていないと詰め寄る麻生新首相。まるで政府側と野党側の立場が入れかわったかのようだ。
国会の代表質問が始まった。総選挙をにらんだ論戦の幕開けである。
3日前の首相の所信表明演説も、民主党への質問を並べたてた異例のものだったが、2日後の小沢氏の質問も型破りだ。なぜ政権交代が必要なのかを訴え、民主党が政権をとったらこうするという政策を並べたのだ。首相への質問はほとんどなし。
一風かわった論戦第1幕ではあったが、あの手この手で国民の支持を得ようとする姿勢は歓迎したい。ますます活発な論戦を期待する。
小沢氏が語ったのは、先月の党大会で発表した政権構想について、どの政策をいつまでに実現するか、工程表を具体的に肉付けしたものだ。
来年度からガソリン暫定税率を廃止、11年度までに高速道路を無料化、12年度までに農家への戸別所得補償制度などの政策を順次実施する。必要な20.5兆円の財源は、補助金や特別会計の廃止などで国の予算を全面的に組み替えて12年度までに段階的につくりだす――。そんな内容だ。
ざっくりした数字をあげたに過ぎず、不明な点も多い。それでも、民主党の政策は財源があいまいだという与党の批判や、国民の不安に応えようという思いは伝わってくる。
注目したいのは、小沢氏の次の問いかけだ。「無駄遣いを続けるいまの税金の使い方を許すのか、それとも、税金の使い方を根本的に変えるのか」
確かに、首相の所信表明を聞いても、無駄やゆがみを重ねてきた自民党政権の税金の使い方を抜本的に改めるという意気込みはうかがえなかった。
無駄ゼロ、地方分権、公務員制度改革、道路特定財源の一般財源化……。やるやると言いながら遅々として進まない自民党政権の「改革」は枚挙にいとまがない。
本気でこれらを実現するなら、政権を変えるしかない。これが小沢氏の主張の中核だ。
だが、麻生氏ら与党側は、経済運営や安全保障、外交など日本が今、直面する難局を民主党では乗り切れない、と主張する。米国の金融危機が深刻化し、日本経済の不況感が深まっている中で、景気対策を強調するのも「今の危機」に対応できるのは自民党しかないと訴えたいのだ。
総選挙に向けて、対立軸のようなものが見えてきたのではないか。
与野党は来週、衆参両院で予算委員会の審議をする方向だ。補正予算案の妥当性を含めて、詰めた論戦でこの対立軸を鮮明に有権者に示してもらいたい。そのうえで一日も早く国民の信を問い、決着をつけるべきだ。
多くの人が眠っている未明の火災とはいえ、なぜ客が15人も亡くならなければならなかったのか。
火事が起きたのは、大阪市の繁華街・ミナミにある「個室ビデオ店」だ。亡くなった客の多くは個室の中で倒れていたという。店内は窓のない迷路のようだ。暗闇の中で逃げる間もなく、煙に巻き込まれたのだろう。なんとも痛ましい限りだ。
大阪府警は客の1人を放火・殺人の疑いで逮捕した。こんな狭い空間で放火したことが事実であれば、とんでもない犯罪だ。大きな憤りを感じる。だが、それにしても、店の防火体制に落ち度があったのではないか、という疑問がぬぐえない。
この店は南海難波駅のすぐ近くで、7階建ての雑居ビルの1階に入っている。32の個室があり、それぞれにテレビやDVDデッキ、ソファなどが置いてある。部屋は中から鍵がかけられる造りだった。
逃げ出した人によると、外への避難口は玄関の1カ所しか使えなかった。通路は狭く、店員の避難誘導もなかったそうだ。これだけでも店の責任は逃れられまい。
しかも、見逃せないのは、この店は1500円で泊まれる「簡易ホテル」というのが実態だったことだ。ホームページでは「完全個室だからネットカフェよりゆっくり寝れちゃいます」と売り込んでいた。シャワー室も備え、タオルや毛布も貸し出していた。
店の常連客は「あの時間ならほとんどの人が仮眠している」と話していた。終電に乗り遅れたような人たちには便利なのだろう。
ところが、店側の避難誘導や防火管理体制を見ると、宿泊を想定し、思わぬ火災に備えたものになっていたとはとても思えない。それが惨事の背景になっているのではないか。
昨年1月、兵庫県宝塚市のカラオケボックスが火事になり、3人が亡くなった。この火事を機に、消防法の施行令が改正され、「個室」を提供する店に自動火災報知機の設置が義務づけられた。その施行日が今回の火災の当日だったというのも皮肉な話だ。
だが、今回のようなビデオ店やネットカフェなどの「個室」が宿泊施設化していることには防火対策が追いついていない。消防庁はこうした店の数すらつかめていない。事実上宿泊施設になっている店は、大きなホテルや旅館と同じようにスプリンクラーを義務づけるなどの新たな対策を考えなければならない。
今回の惨事であぶり出されたのは、都市における宿泊できる便利な個室の危うさだ。いざというときに逃げることができるのか。そうしたことを考えながら慎重に店を選ぶのが、都市で暮らす心得なのかもしれない。