米下院本会議は、金融危機対策のための緊急経済安定化法案を反対二二八、賛成二〇五の反対多数で否決した。危機拡大を阻止するブッシュ政権の政策が白紙となり、世界の金融市場や景気に大きな打撃である。
ニューヨーク株式市場のダウ工業株三十種平均は、金融株を中心に全面安となり、前週末比七七七・六八ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。市場の失望感の大きさを物語るものといえるだろう。
日付が変わって東京や香港などの株式市場でも世界経済悪化への不安が広がり、株価は軒並み大幅下落、世界同時株安の状況となった。金融機関の経営破たんの連鎖が止まらない「米国発の金融恐慌」の懸念すら現実味を帯びている。米国は何としても可決しておくべきだった。否決は残念というしかない。
金融法案は、最大七千億ドル(約七十五兆円)の公的資金を段階的に投入し、金融機関から不良資産を買い取る制度が柱だった。税金投入への国民の批判をかわすため、経営再建が進めば利益を国民に還元する仕組みなども整え、米政府と議会指導部が合意した。
しかし、巨額の公的資金投入と納税者負担の拡大に米国民の抵抗感は強く、十一月の大統領・議会選挙を控え、劣勢が伝えられる共和党から三分の二以上の議員が大挙して反対に回ったのが響いた。政権末期のブッシュ大統領の指導力のなさを露呈した格好である。
否決を受け、米大統領選の民主党オバマ、共和党マケイン両候補が、議会の民主、共和両党に対しそれぞれ党派を超えた取り組みを呼び掛けたことでも、事態の深刻さがうかがえる。
ブッシュ政権の金融不安への対応は鈍すぎる。金融法案の取りまとめ作業が難航する中で、欧米では次々と金融機関の経営が悪化した。住宅金融が主力の米銀行ワシントン・ミューチュアルは経営破たんし、ワコビアは米銀首位のシティグループに買収が決まっている。
欧州にも金融不安は波及した。ベルギー最大の金融グループのフォルティス、英国では中堅銀行のブラッドフォード・アンド・ビングレーが国有化に追い込まれている。金融機関同士が破たんを警戒して、ドル資金のやりとりが縮小し資金繰りの悪化を招いたためだ。
これ以上、金融危機を世界に広げないことが、世界に対する米国の責任である。米国の政治家は国民に納得してもらうため説明を尽くし、金融政策を実行して世界の不安を解消しなければならない。
政府が掲げる「観光立国」への司令塔となる観光庁が一日、国土交通省の外局として発足する。中央省庁の外局新設は二〇〇〇年の金融庁以来のこと。観光を経済政策の大きな柱に位置付けた国を挙げての取り組みが本格的に動きだす。
観光庁は国際観光政策課や観光地域振興課など六課で構成され、定員は百三人。外国人旅行者の誘致促進や、観光を通じた地域振興などを図る。具体的には、国内外の観光客が二泊三日以上で楽しめる観光地づくりや、国際会議の誘致、日本の文化や芸術の情報を海外に発信する事業などを進める。
とりわけ力を入れるべきは外国人旅行者の誘致である。〇七年には韓国、台湾、中国などを中心に約八百三十五万人が日本を訪れた。アジア地域の経済成長を追い風に四年連続で過去最高を更新した。それでも世界的にはまだまだ少ない。一〇年に一千万人、二〇年に二千万人(検討中)という政府目標を何としても達成したい。
観光は経済的波及効果とともに、人的交流などさまざまな成果をもたらしてくれる。工業などの資源に恵まれない日本にとって有望な産業として期待される。観光に特化した組織の誕生は大きな弾みとなろう。
海外への積極的な売り込みが求められる。日本は各地に四季折々の自然美や、歴史と風土に培われた多彩な文化や食、伝統技術などがある。外国人旅行者の増加には有名な観光地だけでなく、地域へ関心を向けることが欠かせない。新たな観光資源の発見や、住む人々に地域を再認識させることにもなる。
観光庁は厳しい財政下での創設の重みを認識しなければならない。お役所気質を捨て、意欲ある地域の支援に柔軟かつ果敢に取り組むよう求めたい。
(2008年10月1日掲載)