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国立がんセンター、麻酔の責任者が就任

 麻酔科医の不足が深刻となっていた国立がんセンター中央病院(東京都中央区、土屋了介院長)に10月1日、麻酔部門の責任者として元横浜市立大附属病院麻酔科の准教授が新しく就任した。同センターの常勤の麻酔科医はこれで5人となり、今年度末までに随時人員を補充していく考えだ。これまでは手術件数を削減するなどして麻酔科医不足に対応してきたが、土屋院長は「来年4月には今まで以上に手術を行える体制を整えていきたい」と話しており、今回の就任がセンター全体の立て直しにつながることに期待感を示している。(熊田梨恵)

【今回の関連】
厚生労働省人事(10月1日)

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 日本で最大級のがん治療施設である国立がんセンターの麻酔科医不足をめぐっては、常勤の麻酔科医10人のうち半数の5人が昨年末から今年3月にかけて相次いで退職したため、一日当たり約20件だった手術を、3月から15件に減らし、院内に張り紙を掲示するなどして患者に周知した。土屋院長は、昨年まで5000件弱だった手術件数が、今年は3500件弱にまで減少するとみている。

 元准教授は同院の第二領域外来部長に就任し、麻酔部門の責任者としての役割を担う。同センターではさらに、常勤の麻酔科医1人が9月末で退職していたため、これで常勤は5人体制に戻った。土屋院長は、「麻酔科医の枠は14人まで用意できるが、すべては難しいので、キーパーソンに少しずつ来てもらいながら大学からの応援も借り、全体を改革していきたい。10月から3月の間に少しずつ戦力を増強していく。院内もまだ実感はわいていないと思うが、実際動き始めれば安心の雰囲気が広がっていくのでは」と話している。

■麻酔科学会、東大、横浜市立大の連携が奏効
 今回の麻酔科医の就任の背景には、日本麻酔科学会(並木昭義理事長)が協力し、東大や横浜市立大が連携して動いたことがある。

 土屋院長は、6月に開催された日本麻酔科学会で、並木理事長に同センターの窮状を訴え、学会の協力を要請。これを受けて学会が都内の主要大学に呼び掛け、東大大学院麻酔学の山田芳嗣教授(元横浜市立大医学部麻酔科教授)や横浜市立大附属病院麻酔科の後藤隆久教授らがこれに応えた。
 横浜市立大附属病院は、1999年の患者取り違え事故発生後、院内を挙げて医療安全対策に取り組んでいるが、山田、後藤両氏は当時の中心メンバーだった。

 土屋院長は、「横浜市立大はもともと手術部を立て直してきたキャリアがある。山田先生と後藤先生が『こういうタイムスケジュールでどうか』と解決方法を考えてくださった」と語る。

 今回就任した元准教授は、山田、後藤両氏の下で彼らと医療に取り組んできた、いわば「腹心」。院内の安全対策や就労環境改善などにも共に取り組んできた。

 日本麻酔科学会の古家仁常務理事は、「学会としても無い袖は振れぬが、2人が声を上げてくださったからよかった。横浜市立大は日本でも有数の麻酔科教室。今回就任された先生も、山田先生や後藤先生にこれまで付いてきた方。横浜市立大でも、女性医師のワークシェアの仕組みづくりなどを考えてきたキャリアや、立て直しに携わった実力のある先生だ。今後も、がんセンターのことを彼だけに任せてしまうのでなく、横浜市立大や東大は全面的にバックアップして支えてほしい」と話している。

■この動きを広げ、麻酔医不足解消に
 また、古家常務理事は「がんセンターの場合は麻酔科医が働きにくい環境があった。それが変わらなければ、上がどれだけ旗を振っても、下は付いてこず辞めてしまう。他科の医師や臨床工学士、看護師など周囲のスタッフにも麻酔科医の仕事を理解してほしい。麻酔科医は単に患者を眠らせているのではなく、外科医が手術しやすい状況をつくるなど、命にかかわる仕事をしているのだから、きちんと働ける環境を整えてほしい」と、就労環境の改善を求めている。
 さらに、「今回のような動きが理解され、広がっていけば、みんなで助け合おうという動きが広がるのでは。麻酔科医が足りない地域も、やり方によっては補える」と、麻酔科医に対する理解の広がりが地域や医療機関での麻酔科医不足の解決策の一つになるとの見方を示した。

 土屋院長も、「以前のような『寄せ集め』のやり方ではなく、きちんとした方法で麻酔科医を集めるべきだと思った。手術前後の管理や、社会復帰までも今まで以上に任せていきたいというこちらの思いを(山田、後藤両氏に)伝え、先生方も応えてくださった」と話す。

■がんセンター事務部門は厚労省の医系技官
 がんセンターの麻酔科医が離職した理由については今年4月に、国家公務員であるため給与が一般の病院と比較して低いことや、病院の指導・管理体制の不備などと報道されていた。

 がんセンターの手術は、複雑な全身管理を要求される救急医療を行うような急性期の医療機関とは違う。「麻酔科医は全身がどのような状態にあっても対応できるよう訓練されているが、がんセンターではなかなか麻酔の腕が発揮できない」(古家常務理事)。このため、国立がんセンターには、手術麻酔ではなく緩和医療に関心がある麻酔科医が多いものの、麻酔科医たちはこうした業務に実際は従事できていなかったとの声も聞かれる。

 ただ、こうした問題は、国立がんセンターが抱える問題の氷山の一角であり、がんセンターが厚生労働省の付属機関であることに一因があるとの指摘もある。
 がんセンターの事務部門を担う運営局の局長は厚労省からの医系技官で、実質は院長と「同格」のポジションだ。多くの場合、人事異動で担当者は2年程度で交代してしまうし、課された職務は年度内に終わらせねばならない。このため、臨床現場と事務部門が乖離(かいり)し、さまざまな問題を引き起こしているとの見方もある。

 国立がんセンターで勤務した経験のあるJR東京総合病院血液・リウマチ科の小林一彦主任医長は次のように語った。
 「人事異動で入れ替わりやってくる人間が、病院の企画などを考える。がん対策基本法施行後、『がん対策情報センター』の設置など、さまざまなことが厚労省側から下りてきたが、現場の状況は省みられないまま。いつも突然何かが起こるので、われわれ現場の医師は、しらけてしまっていた。病院の事務サイドは院長ではなく、厚労省を向いて仕事をする。このため、国立がんセンターの内部では紛争が絶えなかった。 麻酔科医の問題は、単純に病院マネジメントの問題ではなく、がんセンターが抱えるさまざまな問題が集まって目に見える形になったものでは。今回の麻酔科問題は、これまでの院長らが残した問題であり、こうした状態を立て直そうと土屋院長は組織の複雑な問題にも取り組み、がんセンターは着実に改善されてきている」

                    ■   ■   ■

 この日の国立がんセンター中央病院。外来や受付にはいつもと変わらず多くの患者があふれ、職員が忙しく働いている。院内の掲示板には、手術件数の制限を知らせていた張り紙は見られなかった。
 手術をあすに控え、入院のため埼玉県から来たという50歳代の女性は、「手術の件数を減らしていて、わたしも最初は手術の時期が遅れると聞いていたので安心した。これで助かる患者さんが多いと思うので、いい話だ」と笑顔を見せた。

 がん患者や家族たちの安心の、最後のよりどころとなる国立がんセンター。土屋院長が語る「今以上の手術体制」まであと半年を切った。


更新:2008/10/01 16:36   キャリアブレイン


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