朝日新聞の「メンコ」

2008/5/23 金曜日 – 1:19:46

不思議なオペラ。4月に大阪、名古屋、東京で上演されたザルツブルク音楽祭の引越公演(朝日新聞文化財団、朝日新聞主催)のこと。

4月24日の上演は上野の東京文化会館ホール。客席のほぼ中央に、朝日新聞の秋山耿太郎社長がいた。上演は同紙創刊130年記念事業の一環だから、ゆかりの人々が大勢招待されている。秋山社長はせわしなく周囲に挨拶を送っていたらしい。

その華やかな一方、87歳の朝日新聞社主・村山美知子氏(朝日新聞社株36.46%を占有・筆頭株主)に自ずと注目が集まる。妹、富美子氏、甥の恭平氏の持ち株を合わせると、村山家で約144万株、45%を占める。姉妹が高齢なためその相続問題が、朝日新聞経営陣にとって頭痛の種との噂が耐えない。

法的な相続人は恭平氏だが、一株1万円で見積もっても相続額は120億円、「数寄屋橋や中之島の一等地に保有する不動産を考えれば一株8万~9万円でもおかしくない」といわれ、相続税を払えず国に物納の恐れもある。

過去に経営陣が株買い取りを打診したが、1960年代に美知子社主の夫、故・長挙氏を社長から追放したわだかまりが残り、評価額についても社員持ち株の買い取り価格と同じ一株1600円では折り合えなかった。

その円満解決こそ朝日新聞の歴代社長が果たせなかった難題だが、どうやら秋山社長はあと一歩までこぎつけていたらしい。朝日の「奥の院」は厚いベールに包まれているが、複数の関係者の話を組み立てると、その輪郭が浮かんでくる。

きっかけは06年に明るみに出た秋山氏の長男が大麻所持で逮捕された事件。秋山社長から辞意を聞いた美知子社主は「朝日に勤めて家庭を顧みず、息子が非行に走ったのでは、創業家としていたたまれない」と涙を流し、「株式問題の解決まで社長の座にとどまってください」と厳命したという。

水面下で工作が始まった。

大枠は、

(1)村山株を引き取る受け皿には、大阪国際フェスティバルなどの音楽会や美術展の助成を行う朝日新聞文化財団(秋山耿太郎理事長)をあてること

(2)美知子社主の寄託と相応の額を朝日新聞社が同財団に出すこと

(3)財団の定款を変更、助成の対象を文化全般に広げること

(4)財団の理事会を改組し、秋山氏に代えて外部から理事長を招請するなど陣容を一新すること

これは文化財団を事実上の朝日新聞の持ち株会社にすることにひとしい。美知子社主は財団の理事も務めており、先の『フィガロ』上演など文化事業に実績のある財団なら税金も安くなる利点があるが、鮮明なのは甥の恭平氏に相続させたくないという社主の意向だろう。村山姉妹には、もともと根深い対立がある。美知子社主は妹の結婚を認めず、その子にも拒絶反応を示してきたという噂が公然と流れている。

06年12月3日、ウェスティンホテル大阪の中華料理店で、村山家と上野家(社主・尚一氏、克二氏、信三氏)の創業2家が一堂に会し、美知子社主も車椅子で出席した。これを機に恭平氏は相続人として“認知”されたかのように振る舞い、週刊誌の取材にも応じたが、やはり不信の溝は埋められなかったらしい。 

文化財団を持ち株会社にするアイデアは、かつて箱根の「彫刻の森美術館」を使ってフジサンケイグループを支配した鹿内家の手法を思わせる。ただ、朝日のケースは創業家と会社が手を携えて持ち株会社を形成する違いがある。鹿内家を駆逐した日枝久・フジテレビ会長を恭平氏が密かに訪ね株式問題を相談した話も、さもありりなん。

肝心の株式評価額をいくらとしたのかは漏れ伝わってこないが、内々に国税に打診したらしい。新理事長就任を96歳の聖路加国際病院理事長兼名誉院長の日野原重明氏にも依頼し、朝日新聞記者だった細川護熙元首相らを新理事に加える予定だった。09年に文化財団を衣替えする計画は準備万端整い、昨年12月に秋山社長が美知子社主に報告に行った。

そこでドンデン返しが起きた。

御影町の9千坪の屋敷でベッドと車椅子の暮らしを続ける社主は、心変わりしていた。株を手放すのはいや、という。邸内にある財団法人、香雪美術館への寄託が念頭にあるらしい。秋山社長はやむなく年明け、新理事に内定していた人々を集めて「申し訳ない」と計画の中止を告げたという。

元の木阿弥。挫折した極秘プロジェクトが社内の一部に漏れた。初耳だったある論説主幹経験者は「水臭いじゃないか」と秋山社長に詰め寄ったとのこと。

テレ朝が肩代わりに名乗り?これとは別に、上野家の株主3人は3月、美知子社主や恭平氏の同意も得て、

(1)甥を含む4親等まで相続できること

(2)社主が相続人を指名できる(現行定款では代表取締役に決定権)

(3)株式を時価評価とすること

テレ朝で持ち合い構想を進めているのは、テレビ生え抜きの次期社長候補、早河洋副社長らしい。朝日新聞側は複雑だろう。テレ朝の広瀬道貞会長も君和田正夫社長も新聞出身で、持ち合いが実現すれば、フジテレビと産経新聞のようにテレ朝が朝日新聞の親会社になり、“獅子身中の虫”によるクーデターとも見えかねない。

ある試算によると、「現状」(部数の減少と広告費の減少)によって、8年後には「朝日新聞」がなくなるかもしれないという。

そういう「現状」を前に、何をやっているのだか・・・。痛々しい、というほか無い。

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