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2008年10月1日

◎米金融法案否決 「失われた十年」の恐れ

 米国発の金融危機が現実になるかもしれない。公的資金で金融機関の不良資産を買い取 る金融法案を米下院が否決した。政府・議会の協議で可決に合意していただけに、世界の金融市場に及ぼした衝撃は大きかった。

 法案が否決されたのは、ひとえに税金で銀行を救うことへの反発である。日本でも一九 九二年、当時の宮沢喜一首相が公的資金で銀行の不良債権を処理する案を示したが、国民の猛反対で取りやめになった。このとき、投入を決断していたら、日本経済の「失われた十年」はなかったかもしれない。米国もあのときの日本と同じ失敗を繰り返すのだろうか。

 麻生太郎首相は、金融不安の拡大を受けて、総合経済対策を盛り込んだ補正予算の審議 入りを指示したとされる。選挙による政治空白の影響を最小限に抑えるためにも、補正予算の成立がますます重要になってきた。与野党の歩み寄りを求めたい。

 証券大手のリーマン・ブラザーズに続いて、銀行大手のワシントン・ミューチュアルが 破たんするなど、米国の金融機関が変調をきたし、欧州でも銀行の破たんや国有化が相次いでいる。こうした負の連鎖を断ち切るための「切り札」となる法案があっさり否決されたのだから、世界中の株式市場が暴落したのも当然だろう。これから金融機関の破たんが加速し、本格的な景気後退が始まるかもしれない。米議会は万難を排して修正案の取りまとめに動き、公的資金投入の道を開いてほしい。

 ウォール街の金融機関は、長らく我が世の春を謳歌(おうか)してきた。他産業とはケ タ違いの高給を手にし、最新の金融工学を駆使して巨額の利益を上げていた。そんな業界に血税を投入するのはとんでもないという主張は分からぬでもない。日本でもかつて似たような話をさんざん聞かされたが、問題を先送りしたツケは、結果的に高く付いた。

 まして今回のサブプライムローン関連の損失額は、国際通貨基金(IMF)の試算で百 三十八兆円に達している。民間の手に負える状況ではなくなっている点を米議会関係者は理解してほしい。

◎観光庁発足 地方活性化を最重点に

 一日に発足する観光庁に望みたいのは、観光振興を通して地方を活性化させるという視 点を明確にもち、地方の取り組みを強力に後押しすることである。麻生太郎首相が所信表明演説の中で観光庁の任務を「地域再生」と明言したからには、同庁はその方針を前面に押し出し、具体策を講じてほしい。

 観光庁が担う大きな仕事は、訪日外国人旅行者を二〇二〇年に二千万人に増やすという 政府目標の達成である。それを実現する大きなかぎは地方へ外国人旅行者を向かわせることであろう。

 石川県は北陸新幹線開業に重なる一四年末までに年間外国人宿泊者数を五十万人に増や す新たな目標を掲げ、富山県でも海外誘客の強化へ向けて観光振興戦略プランの策定を進めている。外国人旅行者は両県でも右肩上がりで増えているが、地域経済を元気づけるにはまだまだ物足りない。観光庁は海外へ向けて日本への関心を促すだけでなく、地域の個別の魅力を積極的に発信してもらいたい。

 観光庁は国土交通省の外局として関係六課を統合し、百人規模でスタートする。国交省 、外務省、経済産業省、文部科学省など縦割りで実施されている観光政策を一元化し、観光立国を目指す狙いである。中央省庁の外局は二〇〇〇年の金融庁以来となり、行政組織のスリム化の流れの中で厳しい目が注がれていることも忘れてはならない。まずは目に見える成果が求められるだろう。

 政府の観光立国推進基本計画の中には、たとえば都市景観向上策として無電柱化の推進 が盛り込まれている。外国人観光客を迎え入れるうえでも重要な環境整備だが、多額の工事費を要するため、地方では思うように進んでいないのが現状だ。観光庁が観光政策の司令塔役を担うなら、関係部局と連携して補助率を手厚くするなど整備方針を見直してもらいたい。

 観光庁発足によって地域間の誘客競争は一段と激しくなることが予想される。石川、富 山県も地域の魅力を引き出す取り組みを加速させ、受け入れ体制をしっかり整えていきたい。


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