政局2008
麻生首相が所信表明、衆院選視野に対決姿勢
【政治】政治学者 菅原 琢さん Q 有権者は何を基準に1票を?2008年9月30日 07時06分 衆院解散・総選挙に向け、政界は臨戦態勢です。注目された麻生内閣の支持率はいまひとつ。選挙にどう影響するのか。そして、私たちは何を基準に一票を投じればいいのか。有権者の投票行動に詳しい若手政治学者の菅原琢・東京大特任准教授と考えました。 記者・清水 孝幸 清水 麻生太郎内閣の支持率は48・6%でした。どう見ますか。 菅原 内閣支持率は支持か不支持か、単純に聞くため、首相として何も実績を残していない段階では、有権者はいきなり「この人はダメだ」という評価はせず、とりあえず「支持」を選択しやすい。これがご祝儀支持率の正体ですが、これを含めて50%を切ったのは自民にとって相当きつい。 有権者には二代続きの政権投げだしの記憶が残っています。自民党にとって、政権担当能力があるというイメージが一番の財産でしたが、それが崩れています。支持率が福田政権末期より上がっても、中身はボロボロということです。 清水 与党は内閣支持率が高いうちに、衆院解散・総選挙になだれ込む構えです。 菅原 内閣支持率より政党の支持率や評価の方が重要です。内閣支持率が高くても低くても、自民支持者は自民に、民主支持者は民主に入れる。今はかつてよりも民主の支持率が高い。自民イコール政権政党というイメージが描けなくなり、自民なら何とかしてくれるはずだと投票していた無党派層はだいぶ離れた様子です。世論調査で望ましい政権の枠組みを聞くと「自民中心」が「民主中心」に負けています。内閣支持率が上がり、その通りに選挙結果が出ると自民党幹部が考えているなら妄想に近い。 清水 麻生さんは人気があるから、自民党総裁に選ばれたのでは。 菅原 人気がないとは言いませんが、小泉(純一郎元首相)さんのように、自民党を選挙で勝たせるほどの国民的な人気があるとは思えません。世論調査で「首相にふさわしい人は」と聞くと、だいたい麻生さんが一位ですが、それは「あの人が好き」という人が多いわけでなく「(首相候補では)麻生さんしか見当たらない」「他の人はあまり知らない」と選ばれたにすぎません。 清水 最近の政治は世論調査を意識し過ぎている感じもしますね。 菅原 世論調査に関して素人である国会議員がそれに頼って判断するのが、とても奇妙に見えます。議員は選挙で選ばれ、有権者から政治という難しい判断をする仕事を請け負っているはずなのに、いちいち判断を有権者に聞いているということです。情けないと言えば情けない。 清水 一方の民主党は小沢一郎代表が無投票で三選されました。自民党総裁選に有権者の関心を奪われ、不利になるともいわれましたが。 菅原 本来なら、なぜ無投票なのだと攻められるはずだったのに、自民党もマスコミも総裁選に集中してしまって、攻撃をあまり受けず、助かったのかもしれません。むしろ、小沢体制でまとまっていくぞという姿勢が前面に出て、イメージ戦略としてはよかった。 各地で「刺客」を擁立したり、小沢さん本人の国替えが話題になったり、小沢さんに人気はありませんが、何かを仕掛けてくる強いリーダーというイメージづくりに成功したかもしれません。 清水 衆院選では有権者は何を見て、一票を投じればいいですか。 菅原 党首が誰かよりも、政党の力を見るのが一番重要。どっちの政党が、よりきちんとした政権運営をできるのか、比較することです。 ここ二年の政権運営を見ていると、年金も、消費者行政も、公共事業の見直しも、すべてダメでした。こういう政策をやりますというだけでなく、実行できるか、きちんと吟味すべきです。 清水 ズバリ結果を予想すると。 菅原 いま解散したら民主党を中心とした野党が勝つでしょう。ただし、麻生さんがどうのとか、政権を放り出したとかいう敵失以前に、民主に地力がついてきたというのが最大の理由です。 自民党は支持基盤の農漁村の人口が減り、長期的に得票率を減らしてきました。小泉さんが都市部に支持層を広げる政策を出し、急場を凌(しの)ぎましたが、その路線も放棄しました。昨年の参院選の大敗は自民の本当の実力です。 一方の民主党は着実に根を張ってきました。野党協力をきっちりやり、まともな候補を立てれば勝てます。 自民党は巻き返そうにも、二〇〇五年の郵政選挙の大勝で現職候補が多く、目玉候補を立てるのも難しい。自民党は本当に解散して大丈夫なのかなと思います。 ■すがわら・たく 1976年東京都生まれ。東京大法学部卒。同大大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。同大先端科学技術研究センター特任准教授。専門は政治学(政治過程論、日本政治)。選挙分析や国会に関する論文多数。 (東京新聞)
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