新千歳から沖縄まで、プロペラ旅客機だけを乗り継いで旅してみます。
ローカル航路の乗り継ぎですから、幹線を乗り慣れた方には新鮮味が感じられることでしょう。その軽快な乗り味とともに1泊2日の縦断旅行をお楽しみください。
(本企画タイアップ:月刊エアライン編集部[イカロス出版])
- 出発地:
- 東京 名古屋 大阪
- 出発日:
- 9月~10月の月・水・金・日曜日(※ただし除外日あり)
- 最少催行人員:
- 1名
- 食事:
- 1朝食/付
- 添乗員:
- 同行いたしません。
- 備考:
- 1名様でご参加できます。
- 沖縄目指して札幌行きに乗る
- JACの“長距離路線”で信州まつもとへ
- 快適さが仇? 睡魔が襲う
- JALカラー機へバトンタッチ
- 荒れ模様の鹿児島空港
- どの席でも眺めがいいQ400
- いよいよ那覇へ、最終レグ
沖縄目指して札幌行きに乗る
新千歳空港のオープンスポットで信州まつもとへの出発を待つJACのQ400(奥)。手前は同じJALグループの小型ジェット機CRJが駐機しているが、こちらはプロペラ機だけで那覇まで飛ぶ。
世代にもよるだろうが、本州以南で生まれ育った人ならば、北海道には異国に似た憧れを持つ人も少なくないだろう。例えば東京在住者であれば、四半世紀ほど前までは、現在ほど気軽に訪れることのできる土地ではなかった。しかも、鉄道と連絡船を乗り継いで1日半、そんな行程も珍しくなかった時代である。
その北海道へゆく。
乗るのはJAL517便、10時15分発の新千歳行きだ。所要時間は1時間半で、午前中には北海道の大地に立つことができる。
「夢のような話だ」
さすがにそこまでは思わない。今では北海道に行くのに飛行機を利用するのは当たり前。ただ、便利になった一方で世の中のスピード化がどんどん進み、旅の形もあわただしくなった。そうなると贅沢なもので、たまにはのんびりとした旅もしたくなるものだ。
実は今回の最終目的地は那覇である。なのに新千歳行きに乗るというのはまるで逆方向だが、新千歳からJALグループの日本エアコミューター(JAC)と琉球エアーコミューター(RAC)のプロペラ機だけを乗り継いで那覇まで行けるのだ。
いうなれば「プロペラ機各駅停車の旅」。列島縦断飛行の〝始発〟は新千歳13時20分発のJAC2855便である。ルートは新千歳~信州まつもと~伊丹~鹿児島~与論~那覇。搭乗機材はここから与論までDHC-8-400(Q400)だ。スポットで待っていてくれたのはJA842C号機。JACが導入したQ400の2号機で、胴体に「Q400」と大書きされたJACのオリジナル塗装機である。
JACの“長距離路線”で信州まつもとへ
新千歳/信州まつもと線はJACの中では長距離路線。ドリンクサービスもゆったりと行われる。
JAC路線ではオリジナルのルートマップやオリジナル情報誌、絵ハガキなど、いろいろなものが配られる。
信州まつもと到着の直前には北アルプスの山並みも顔をのぞかせた。
淡い日差しと爽やかな風が心地よい新千歳空港を離陸したJAC2855便はすぐに薄い雲の中に入った。新千歳を発った後、信州まつもとまでは、函館、青森、秋田、新潟の各空港上空をたどるように飛行し、機長からも飛行経路のアナウンスが入る。
ところで、今回の旅行をしたのは6月上旬で梅雨前線が活発化した時期と重なった。結論から先にいってしまうと、道中は雲上飛行が多く、機窓の景色には恵まれなかった。それでもこのJAC2855便では佐渡島や北アルプスの山並みを望むことができ、眺めを楽しむことができた。
新千歳/信州まつもと線はJACにとっては長距離路線で、所要時間も1時間50分とプロペラ機にしてはかなり長い。機内では客室乗務員(CA)がカートを出してドリンクサービスを開始した。この便に乗務していた川原園静佳CAと後迫沙苗CAも「フライトタイムが長いので、満席でもゆっくり、しっかりとしたサービスができるのでいいですね」という。二人のCAにはJA842C号機とともに伊丹までお付き合いいただくことになる。
機内ではJACオリジナルのエンルートマップや情報誌も配られた。エンルートマップには各便の飛行経路とともに機窓の見所などが写真ともに解説されているので、天気のいい日であればいい参考資料になる。「UPROP(アップロップ)」という情報誌ではJACのベースである鹿児島の観光情報や名産品をJACのスタッフたちも登場して紹介しているのだが、この日読んだ第4号にはなんと川原園CAが登場して屋久島が特集されていた。こんなアットホームさもグループエアラインの魅力だろう。
快適さが仇? 睡魔が襲う
信州まつもと空港に到着したJA842C号機。25分のターンアラウンドで伊丹行きのJAC2276便となる。
翼の前縁の黒い部分が防除氷ブーツ。膨らませることにより翼の氷結を防ぐ装置だ。
信州まつもと空港には15時10分に到着。わずか25分後には伊丹行きのJAC2276便に乗り継がなければならない。新千歳発のJAC2855便ではキャビン最後方に席をとったが、今回は9A席に座る。左舷側でエンジンが真横の席だ。
Q400はNVSという機内騒音・振動抑制システムが装備されており、プロペラ機としてはキャビン内は非常に静かで快適性を高めている。ただし、エンジンの真横は他の客席とは音や振動が違う。「ブォーン」という豪快なうなりとともに6枚のプロペラが回転し始めると、微振動がかすかに伝わってきた。Q400は短距離路線ではジェット機に引けを取らない快速とキャビン快適性が売りの飛行機だが、今回のようにプロペラ機にこだわるフライトをするなら、一度はエンジン横に座っておきたいものだ。プロペラの動きを見ているだけで、ジェット機にはない躍動感のようなものを感じることができ、「これから飛ぶぞ!」という気分が盛り上がってくる。
信州まつもと/伊丹線は好天ならば木曽山脈などの雄大な大山塊を望むことができる路線だ。離陸後は航行援助施設(VORTAC)のある知多半島先端の河和を目指し、そこから西へ変針して伊勢湾を越え、奈良上空から伊丹空港へ北上する。
乳色の雲だけが広がる巡航飛行中、エンジンをボーっと眺めていると、白い粒子がものすごい速さで後ろに過ぎ去っていくのに気がついた。最初は雨だと思ったが、飛行高度を考えれば氷の粒かもしれない。すると翼の付け根近くやエンジンのエアインテークに設けられた防除氷ブーツがプクリプクリと展張を始めた。ゴム製のブーツを膨らませたり縮めたりすることによって飛行に悪影響が出ないよう氷を取り除いているのだ。こんなシーンが間近に見られるのも小型機ならではの楽しみといっていい。
それにしても、先ほどから急速に睡魔が襲ってきて困る。キャビンがそれだけ快適だということでもあろうが、梅雨前線の影響で気流が悪く、機体が小刻みな揺れを繰り返しているのも、眠気を誘う理由のようだ。ふと見ると2列前に座っている同行の阿施カメラマンの頭が微動だにしない。景色が見えないので、じっとしているだけかと思っていたら、そのうちガクリと壁側に頭をもたげてしまった。今回は離着陸時の風景も撮影しようとフィルムカメラまで持参し、伊丹到着前は「大坂城を撮ろう」という話になっている。すでにJAC2276便はアプローチを開始し、雲を抜けて大阪市街の上空に達しているので、大坂城をインサイトするのも間もなくだ。ベルトサインが灯っているので起こすわけにもいかず、仕方なしに自分のフィルムカメラを構えて大坂城を狙ってシャッターを切ったら、その瞬間にガクンと揺れた。
「ブレた!」
そう思ったものの、デジカメではないから確認さえできない。その揺れで目を覚ましたのか、阿施カメラマンが慌ててレンズを窓外に向けて盛んにシャッターを切っている。しかし、肝心の大坂城はすでに遥か後方。今頃起きても遅いよ、阿施さん……。
JALカラー機へバトンタッチ
伊丹空港では就航を開始したばかりの「JALエコジェット」の姿も見ることができた。
雨が降りしきるオープンスポットに待機していたのはJALカラーのJA850C号機。この鹿児島行きJAC2419便が初日の最終フライトだ。
伊丹空港のランウェイ32RにランディングしたJAC2276便は雨が降りしきるオープンスポットに到着、地上係員から傘を手渡されてターミナルビルへと向かった。伊丹では2時間半の“ロングステイ”だ。なにしろ北海道から飛びっぱなしなので、そろそろ空腹感もある。軽く腹ごしらえをするには、伊丹が最適。高いフェンスもなく見晴らしの良い展望デッキで飛行機ウォッチングをしたり土産物屋をひやかしたりして“伊丹滞在”を楽しんだのち、いよいよ初日の最終レグとなる鹿児島行きのJAC2419便にボーディングとなった。
搭乗機材は相変わらずのQ400だが、今度は飛行機の見た目が違う。JACのQ400はJALとJASの経営統合に伴い、3号機から「太陽のアーク」でおなじみのJALグループ標準塗装に変更されている。JAC2419便にアサインされたのはJACとして10機目のQ400であるJA850C号機 だった。
新千歳から伊丹までお供してもらったクルーに代わり、この便のキャビンは安楽正子CAと北村佳世CAの2名が担当。伊丹を定刻に離陸後、またも厚い雲の中に飛び込んだ。前線に近づいているせいか揺れが続く。この路線も所要時間が1時間25分とJAC路線の中ではロングフライトの部類に入るのでドリンクサービスが行われる。揺れる機内でのサービスは大変な仕事だと思うが、安楽CAも北村CAも笑顔を見せて平然とドリンクを配っているのは、さすがプロ。ただ、この便ではスープやホットコーヒーの提供は中止された。機体の揺れでホットドリンクをこぼしてしまい、乗客がやけどでもしたらいけないからだ。こうした臨機応変な判断や対処もCAには求められるのである。
安楽CAと北村CAはYS-11の乗務経験もある。YS-11はいうまでもなく2006年9月までJACが運航していた国産の名旅客機だ。
「いまでもお客さまの中にはYSを懐かしがってくださる方がいます。伊丹/鹿児島線を飛んでいた時期もありましたが、2時間くらいかかっていましたね」
乗客との距離感が近くて触れ合いが多く、飛行高度が低くて眺めがよいなど、YSならではの魅力も少なくなかったようだが、今回のような列島縦断はQ400のような高速ターボプロップ機が就航していなければできなかっただろう。Q400はジェット機で運航されていた路線をも継承するくらい脚が速いのだ。
荒れ模様の鹿児島空港
大阪市街の夜景を見ながら離陸。間もなく機体は厚い雲の中に吸い込まれた。
すっかり夜の帳が下りた鹿児島空港に到着したJAC2419便。
窓外がすっかりと宵闇に包まれた20時過ぎ、JAC2419便は鹿児島空港へのアプローチを開始した。ところが、揺れは激しくなる一方で、いったんはダウンしたランディングギアがすっと上がり、エンジン音が高まって機体は再上昇。ミストアプローチ(進入復行)だ。
間もなく「鹿児島空港に強い東風が吹いており、鹿児島市上空で旋回して天候の回復を待ちます」との機長アナウンスが入る。この日は太平洋上を通過している台風が前線を刺激したこともあり、南九州地方は風雨ともに強く、霧島連山からの下降流も加わって気象条件が悪化していたのだ。結局30分以上の上空ホールディング(待機飛行)を強いられることになったが、ヒコーキ好きにしてみれば、長くフライトできただけ得したと考えればいい。ただ、到着後は霧島市内の焼鳥屋で薩摩焼酎でも一杯やろうと思っている。店が閉まってしまわないか、そちらの方が心配になった。
やがて「再びアプローチを行います」という機長からの連絡があったのち、再度ギアダウン。相変わらず揺れは続いているものの、先ほどよりは幾分ましなようだ。横風の影響を最小限に抑えるためか、やや速めのアプローチ速度でランディングした。
こうして悪天候にいささか翻弄されはしたものの、JAC2419便は21時過ぎに鹿児島空港に無事到着。空港照明に照らされたエプロンには激しい雨が叩きつけている。これで初日のフライトが完了、少しばかりホッとした。
どの席でも眺めがいいQ400
鹿児島はJACのベース空港。Q400(右)だけではなく同社のサーブ340B(左)も発着している。
上空の雲の中に入る直前、左手の機窓には錦江湾の風景が広がった。
左右の機窓に点々と南西諸島の島々が見えるのがこの路線の醍醐味。この日も時折雲間から小島が姿を現した。
2日目の朝が来た。今日は与論経由で最終目的地の那覇へと向かう。最初の便はJAC3823便。出発は正午なので、のんびりと準備をして空港へ。前日の夜まで吹いていた強風はだいぶ穏やかになったが、残念ながら上空には雨雲がべったりと張り付いている。機材はこの便もQ400だ。登録記号はJA847C、塗装はJAL標準カラーである。
74人乗りのQ400では通常2名のCAが乗務する。しかし、この便は3名が乗務。白濱美和CAと西村由佳CAのほか、訓練生の内村典美さんが乗務しているのだ。聞けば内村さんはこの日が最後のOJTだという。先輩CAに確認しながら乗客にドリンクなどをサービスする笑顔が初々しい。
鹿児島/与論線は南西諸島沿いに、点在する島々をたどるように飛ぶ“アイランドビュー”路線でもある。視程がよければ左右の機窓に次々と大小の島が現れ、その都度CAがガイドしてくれるので、遊覧飛行のようだ。この日はあいにく雲間からうっすらと島が姿を現す程度だったが、到着間際には奄美大島、加計呂麻島、与路島、徳之島を視認することができた。
白濱CAも「高翼機なのでどの席からでも景色がよく見えるのがいいところです」とQ400の特徴をアピールする。離島路線の多いJACのネットワークについても「世界遺産の屋久島が人気のデスティネーションですが、来年の7月には屋久島、種子島、奄美大島などで皆既日食が見られるということで、早くも注目されています」と付け加えてくれた。今や北は北海道から南は与論島まで、全国に路線展開するJACは就航地にも見所が多い。
JAC3823便は鹿児島発着離島路線の中では最長となる1時間20分の飛行を終え、与論空港にアプローチすると美しい砂浜の海岸線をかすめるようにしてランディングした。外は相変わらずの雨模様だが、ムッとするような湿気に南国へやって来たことを実感。
与論空港のターミナルは小さな箱形の建物で、まるでローカル線の鉄道駅舎のよう。飛行機を降りると目の前が到着口となっており、ひなびたムードは“各駅停車の旅”にとてもふさわしい。
いよいよ那覇へ、最終レグ
那覇行きのRAC818便はQ300での運航だった。Q400より一回り小さい50人乗りだが、RACでは最大機種となる新鋭機だ。
与論空港で渡されたボーディングパスは"硬券"。今ではローカル路線でしかお目にかかれないだろう。
Q100やQ300の最前方右舷側は向かい合わせのボックスシート。Q400にはない珍しい座席配置である。
鹿児島から乗って来たJA847C号機が折り返しのJAC3824便として出発すべく、エンジンを始動したとき、強くなった雨の中を滑り込むようにして着陸してきた飛行機がある。同じJALカラー、同じDHC-8型機だが、胴体が少し短い。RACの最新鋭機DHC-8-Q300だ。那覇から到着したRAC817便 で、私たちはこれから折り返しの那覇行きとなるRAC818便 に搭乗することになっている。与論での乗り継ぎ時間は1時間だが、Q400とQ300のランデブーを目にすることができたのは幸運だった。文字通りバトンタッチするようにRACのQ300に乗り込む。
外観からも胴体長の差が歴然としているQ300の客室定員は50人で、Q400より24人少ない。CAは1名で、この日は山野上四季CAが乗務。
那覇到着後、山野上CAに与論/那覇線について聞くと、飛行時間は短いものの飛行高度が低いので晴れていれば小さい島々などの景色を楽しめる路線とのこと。ほかにもRACには特徴のある路線が少なくなく、例えば北大東/南大東線は風向きによっては実飛行時間が4分程度の超短距離路線。「この路線を乗るためだけにわざわざ搭乗しに来られるお客さまもいるほどです」という。
また、宮古島と石垣島の間にある多良間島は島全体が家族のような土地らしい。「お客さまが当社のCAの顔と名前を覚えてくださっていて、皆さん挨拶をしてくださいます。ある時など、搭乗されたお客さまがエアステアドア(機体の乗降口)から、お見送りのご家族に向かって『炊飯器のスイッチ入れ忘れたから、入れといて!』と叫んでいたりして、とてもアットホームな島ですよ」と愉快なエピソードも披露してくれた。
与論/那覇線はわずか40分のフライトだが、キャンディーや絵葉書配布のサービスが行われる。サービスが終わるとRAC818便は間もなくアプローチを開始、15時ちょうど、ついに最終目的地の那覇空港に到着した。
新千歳から始まった1泊2日の列島縦断。長いようだが、楽しかったので気分的にはあっという間だった。小さなプロペラ機を5回も乗り継ぐ旅にはワイドボディのジェット機とは一味も二味も違う魅力があり、時にはこんな風変りなフライトもおススメである。「北海道から沖縄まで、日本列島を飛んで来たぞ!」そんな実感がきっと得られるはずだ。
快調に回るPW123Bエンジン。Q400が6枚プロペラなのに対し、Q300では4枚という違いもある。 |
那覇空港にアプローチするRACのQ300。これからの季節、沖縄は最高の観光シーズンを迎える。プロペラ機で沖縄入りするのも風情があっていいものだ。 |
上記は月刊エアライン8月号(イカロス出版)に掲載の記事に拠ります。
鹿児島県・霧島市 かごしま空港ホテル
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鹿児島空港に近接し、便利なホテルです。全客室に高速LANが利用できるほか、館内には売店やカフェなどもあり快適。空港までは無料送迎車を運行しています。 |
JALツアーズが展開する旅行商品「旬感旅行」。
その中に「ヒコーキファンのための『日本上空 滞在旅行』」というユニークなツアーがある。
手頃な価格設定で数多くのフライトに乗れるヒコーキ好きにはたまらないツアーだ。
そして今回は、JALツアーズと小誌「月刊エアライン」が共同で旅行プランを企画。
北海道から沖縄まで、すべてプロペラ機だけで列島縦断するという壮大な旅が実現した。
写真=阿施光南
文=佐藤言夫(月刊エアライン編集部)