29日、米議会下院で緊急経済安定化法案が否決された後、記者会見するペロシ下院議長(中央)ら=ロイター
【ワシントン=西崎香】大もうけしてきたウォール街の尻ぬぐいを勤労世帯が迫られる――。米議会下院で29日、金融危機を解消させる緊急経済安定化(金融安定化)法案が否決されたのは、米社会に渦巻く根強い不満に、選挙を11月に控えた議員たちが極めて敏感になっているためだ。
米政府が創設をめざす不良資産の買い取り制度は、世界的な金融危機の深刻化を食い止めるため、かなりの効果が期待されていた。それが宙に浮き、世界中の金融不安は一気に加速している。
ブッシュ大統領は29日早朝も「この救助計画がなければ、米経済への損害は悲惨なことになりかねない」と異例の声明を発表し、議会や有権者に向けて支持を訴えた。しかし反対勢力は予想以上に多く、「小差だが可決に持ち込める」(共和党幹部)としていた議会指導部の期待は裏切られた。
不良資産の買い取り計画が明らかになった先週以来、「選挙区から毎日2千件の電話や電子メールが殺到。9割以上が反対」という議員もいる。減税政策などで「金持ち優遇」と批判されてきたブッシュ政権に対する大きな反発が、肝心な時に急浮上した格好だ。政権末期の「ブッシュ大統領の壊滅的な政治的敗北」(ニューヨーク・タイムズ)との見方も出ている。
法案審議では、米景気の急減速とともに格差拡大への懸念が目立った。基本的に法案を支持する議会多数派の民主党からも「貧困人口は増えているのに、政府は十分な支援策を打っていない。ウォール街の金持ちを救うのに7千億ドル(約75兆円)も必要か」(ヒンチー議員)などの不満が募っている。
「小さな政府」が目標の政権与党の共和党にも、不満が渦巻く。巨額な公的資金の投入が、すでに過去最悪に迫る財政赤字をさらに悪化させ、増税に跳ね返る警戒感が強い。「これだけ大きな救済は、子供と孫の世代にも負担が残る」(ヘンサーリング議員)との反発だ。