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【社説】

麻生演説 挑戦状よりまず説明だ

2008年9月30日

 ある意味で斬新だ。麻生首相の演説は小沢民主党代表への総選挙“果たし状”だった。野党顔負けの「代表質問」スタイルで疑問点を突くのは結構だが、自らの政策の説明を欠いては順序が逆だ。

 所信表明演説に先立ち麻生太郎首相は陳謝した。一つは前任者の突然の政権投げ出し、もう一つは問題発言した中山成彬前国土交通相の辞任。政治不信を招いた二つの出来事に頭を下げるところから始めざるを得ない、そんな状況に政権の苦しさが浮かび上がる。

 劣勢をはね返したかったのだろう。役人の作文と揶揄(やゆ)されがちな従来の首相演説と違って、随所に麻生カラーが出ていた。

 「私は決して逃げません」「私が決断します」−。前政権の負の遺産を振り払おうと、自身のリーダーシップで難局にあたる決意を表明した。ことさら「私」に力点を置いたのは、小沢一郎民主党代表より世論の支持が高いのも念頭に「党首対決」の構図に持ち込もうとしてのことだ。

 挑発は徹底していた。これまでの民主党の国会対応を「政局を第一義とした」と批判し、合意形成のルールをつくるよう要求。政策論では、緊急経済対策を盛り込んだ二〇〇八年度補正予算案への賛否とその論拠、民主党が掲げる独自政策の財源の明示を迫った。さらに消費者庁創設、インド洋での給油継続の賛否…。十月一日から始まる代表質問の場で、との期限をつける念の入れようだ。

 攻めでは歯切れが良かった。だが就任後、初の国会演説である。目指す「明るく強い国」の具体像を語るべきではなかったか。それが王道というものだ。総選挙を意識したのだろうが「喫緊の課題」に限定されては、国民との「夢」の共有はできまい。

 個別政策も踏み込み不足だ。補正予算案成立を「焦眉(しょうび)の急」とし本年度内の定額減税実施も約束した。どうしたことか減税の規模や財源は明示せずに。後期高齢者医療制度についても「一年をメドに必要な見直しを検討」では、お年寄りの不安が消えない。

 質問を突きつけるなら政権が掲げる政策の説明責任をまず果たすのが筋だ。知りたい点をぼかされては有権者も判断できない。

 与党内には予算委員会で野党追及を受けるのは得策でないと三日の代表質問終了後の解散論もあるという。「逃げない」というならば、ここは予算委で堂々と野党の挑戦を受けたらどうか。

 

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