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社説:米金融対策 危機乗り切りへ柔軟な運用を

 曲折の末、米国の金融安定化策がようやくまとまった。何はともあれ、法成立の運びとなったことが朗報だ。交渉が決裂でもすれば、金融機能が完全にまひし、計り知れない混乱が世界の市場を襲っていたかもしれない。

 問題は「これから」の対応である。

 最大で約75兆円の公的資金を使い、金融機関から不良化した資産を買い取るという政府案の中核部分は、かろうじて保たれた。金融機関が腐り続ける資産を抱えたままでは、経済活動の血液である資金がうまく循環しなくなる恐れがある。病巣を取り除き、血流を正常化させようというのが、不良資産の買い取りだ。

 だが、この仕組みがうまく機能し、効果を発揮するかどうかは、実際にやってみないとわからない。今後、政府が詰める詳細が成否を左右することになるが、最大のカギは、買い取り価格がどのように設定されるかだろう。納税者の負担を抑えることを最優先すれば、できるだけ安価で買い取ることになるが、それでは、金融機関に追加損失が生じ、積極的な制度活用が手控えられる心配がある。

 最終案には、政治的妥協の産物として、多くの条件や制約が盛り込まれた。買い取った不良資産が値下がりし、将来、納税者に損失が及ぶような事態になれば、金融機関がその損失を負担するという条項がその一つだ。大統領・議会選挙が近づいていることを考えれば、納税者の利益保護がとりわけ重視されるのは当然かもしれないが、せっかくこしらえた制度が機能しなければ、意味がない。処理が長引けば、結局は国民負担も世界経済への悪影響も大きくなるだけだろう。

 ここは、金融システムへの信頼を一日も早く回復し、市場機能を正常化させることを最優先してほしい。必要となれば、柔軟に改良や修正を加えることも、ためらってはならない。実行にあたり、機動性と英知の結集が求められる。

 もう一つ注視すべきは、米政府が必要資金を円滑に調達できるかという点だ。一連の大規模救済で投入される巨額の公的資金は当面、国の借金でまかなうことになろうが、資金を海外の投資家が快く提供するかどうか。

 この借り入れがうまくいかないと米国の金利が急騰し、米経済がより深刻な不況に見舞われ、ドルが暴落する危険もある。すでに多額のドル資産を保有する日本や中国などにとって、何としても避けたいシナリオだが、重大な問題を抱えた国の国債を、気前よく追加購入するのも難しそうだ。

 問題がこれほど複雑化、グローバル化した以上、日本を含め米国外の経済が副作用や余波を受けることは避けられそうにない。各国の当局者は冷静さを保ちつつも、さまざまな事態に備えておく必要がある。

毎日新聞 2008年9月30日 東京朝刊

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